今まで見たこともないような、いつもと全く違う様子にざわめきながらも焚かれるフラッシュ。
「ほな、一斉に言われても聞こえへんので、手をあげて指名したら社名と記者さん自身の名前言うてもろうたあと、質問してもろうて大丈夫です」
とたんに一斉に、はいっ、はいっ、とあげられる手。
「じゃ、そこの…右から3列目前から2番目の人」
と指名されて立った若い男性記者は、
「丸海出版の佐川言います」
と名乗ったあと、
「アントーニョさんとしては、では今回の記事はとりあえず事実無根だとおっしゃるんですか?」
と、まずよくある質問を投げかけてくる。
それに対してアントーニョは少し考え込むように目を閉じて、それから目をあけると質問をした記者をまっすぐ見つめた。
「アーサー自身からすると、少なくとも最初に俺が預かって面倒を見る言うて社長がそれを決定した時点で、俺は先輩でドラマの相手役である前に、芸能界での生活全般について面倒見てもらう保護者言う立場の人間です。
せやから、あの子の行動はあの子の意志言うより、ほぼ俺からの指示やし、俺の責任です。
もしそれがそういう立場を超えて見えたとしたら、それは俺の指示があかんかっただけで、あの子がおかしいわけやありません。
これは大前提です。
俺に関して言うなら、正直あの子はほんま可愛いです。
ちっちゃい頃からこの世界で生きてきとったから、悪友とエリザ以外とそんなに親しくする機会なくて、初めて面倒任された後輩やし。
芸能界の事とか色々知らん真っ白な状態やから、よくギルちゃんに親鳥雛鳥言われるけど、ほんまちっちゃい子ぉ育てとるような気分で、なんでもやったりたくなるし、危ないモン近づけたないなぁって、たぶん他からみたらおかしく見えるレベルで過保護になるんやと思います。
あの子を一般の世界と引き離してもうて、今までの人間関係とかも引き離してもうてるから、寂しないように心細くないようにっていつも一緒にいるようにしとるんで、確かにオフん時も一緒に過ごし取るのは事実やし、もともと俺が一人で住んどる時にめちゃでかいキングサイズのベッド置いてもうて、それが寝室のほとんど占領しててそれ以上ベッドなんておけへんし、あとは衣裳部屋とリビングしかないさかい、そこで一緒に寝とるのもほんまです。
せやけど、あの子だけやなくて、ギルちゃんやフランとも小さい頃から普通にあちこちで一緒に雑魚寝するの珍しくない状況で育ってきたんで、それがそんな大騒ぎされる事やとは思ってませんでした。
あとはドラマやと皆も知っとるようにあの子は女の子役やから、演じ慣れしとらんあの子がドラマで演じる時に違和感感じんように、たとえばドアあったら俺があけて先に通したり、椅子が一つだけあったら自分が立ってあの子座らせたったり…荷物持ったったり、日常の行動も普段から女優さん達にもしとるようにはしとります。
せやから、え~と……」
と、ちょっと言葉に困ったように眉尻をさげて頭をかく様子は、少し普段のアントーニョらしい…それだけに自然な感じで、イレギュラーだらけで緊張しきっていた会場の空気が一瞬なごむ。
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