暗い寝室。
ベッドの横の床にペタンと力なく座り込んでいるアーサーにアントーニョが声をかけると、途端にまたその自分よりも数回りは細い肩がびくん!と跳ね上がった。
ひっ、ひっ、としゃくりをあげる声が静かな室内に響く中、アントーニョは驚かせないようにことさらゆっくり近づいて、自分もその横に膝をつき、そっとアーサーの肩に手をかけ、自分の方に向かせて、胸元へとだき寄せた。
「大丈夫…。大丈夫やで。
なあんも心配せんでええ。
約束したやろ?親分が絶対に守ったるから。
何を犠牲にしても全身全霊で守ったる。
せやから、アーティはなんも心配せんでええんやで?」
言葉だけじゃない。アントーニョは心の底からそう思っている。
自分の手の中で震えながら泣く天使が可愛くて愛おしくて仕方がない。
汚い大人の世界から真っ白な天使を守るためなら、本当に何を失っても構わないし、自分の身を盾にしても、どんな事をしても守りきってやるつもりだ。
「…っ…っちがっ…俺はいい…けどっ…けどっ…」
なのに天使はふるふると金色の頭を横に振った。
「…何が違うん?」
と、出来うる限り優しく聞くと、アントーニョの天使は涙でいっぱいの大きな目でアントーニョを見上げてくる。
光色の睫毛まで涙で濡れて、それが月明かりの中キラキラと光って見えた。
ああ…可愛らし…と、こんな時なのにうっとり見とれてしまう。
「…おれじゃなくて……」
「…うん?」
「…トーニョがっ……」
「…うん、親分が?」
「…こんなっ…噂…俺なんかとっ……綺麗な女優さんなら良かっ……た…のにっ……」
と、そこでまたじわりと綺麗に澄んだペリドットから涙があふれて、嗚咽に言葉が飲み込まれた。
うっあ~~~と思う。
「自分…なに言うとるん。
親分やったらぜんっぜんかまへんよ?
今までどんだけ色々噂たってきたかなんて数えきれへんし。
そん中では極上の部類やで?今回は。
こんな可愛え天使ちゃんと両想いなんて噂やし」
アホやねぇ…と笑みを零しながら両手で頬を包み、額に頬に鼻先にと口づけを落とす。
本当に綺麗な優しい…でも傷つきやすい心。
本当にこれだけで終わるなら、もうこれはこれで構わないのだが、おそらく明日これが発売されれば、書いてある事以上にえげつない意地の悪い質問や言葉が投げつけられる事は間違いない。
(…守ったらなあかん…なぁ……)
と、かたい決意をして、アントーニョはそのまま泣いている天使の背をトントンと叩いてなだめながら低く小さく静かな歌を歌ってやって、アーサーが泣き疲れて眠ってしまうのを待った。
そうして腕の中で眠ってしまったアーサーをベッドに寝かせなおすと、アントーニョはその額にそっとキスをして寝室を出る。
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