kmt 青い大地の果てにあるものsbg
そうして駆け付けてみれば失血死しかけている天元と号泣している善逸。
そんなある意味少し不穏で和やかな日常は本当に絶妙なバランスで成り立っている。 それはある日のことだった。 当たり前に出動を命じられて、錆兎がいつものように車の助手席のドアを開けて義勇を乗せた後、自分が運転席に座る。
今日も元気に任務待ちである。 ただしいつもと違うのは義勇の服。
──君が噂の義勇ちゃんね。俺は村田。医療本部長なんだ。よろしくね。 実ににこやかで友好的。 そして警戒心を起こさせない彼は威厳が足りないと言われ続けているのだが医療部としては最適なんじゃないだろうか…と錆兎は思う。
──…宇随さん…もう痛くない? 夜…任務の帰りに泣き寝入った善逸が起きて来ての第一声がそれだ。 臆病でヘタレなくせに、自分より遥かに色々強い宇髄のことを気にかけるとか、馬鹿か?こいつは…と思いながらも、それがなんだか心地いい。
ああ、良い人生だった…と清々しく閉じるはずだった宇髄の人生の幕は、強引に開けられるどころか引きちぎられたらしい。
いいもん…というのは本当だと宇髄は思っている。 普通は滅多にみられないジャスティスの第三段階。 宇髄のそれはしかし、今まで何度か問題なく使っていた。
3つ目のイレギュラーで死を覚悟しつつ色々と最期の計画を建て始めた宇髄。 とりあえずしのぶに指示したほうのイヴィルは弱い方の個体だったので偶然ではあるが我ながらいい判断だったと安堵した。
善逸がパニックを起こしていた頃、宇髄はというと非常に淡々と状況分析をしていた。 (…これ、結構まずくね?) と気づいたのは詠唱を終えてジュエルを第二段階に変形させて前方に向かって駆け出した時だった。
全ての巡り合わせが悪かったと言って良いと思う。
「敵は前方300から半径約15mの範囲に雑魚豹20、イヴィル1。 俺の範囲攻撃着弾でゴーで。 善逸としのぶは左側のイヴィルに向かえ。 左側のイヴィルが片付いたら次は右。 それが終わったら全員で残った雑魚の後片付けだ」 「ん~、でもそれだと全部敵が宇髄さんのほうくるんじゃ?」 「俺...
──嘘~~!!! と叫んだのは善逸だけではない。 それまで気丈に頑張る宣言をしていたしのぶもであった。 ──こ、これ、どうしましょう?? ──逃げるに決まってるじゃんっ!! 慌てる二人。 そこに唯一冷静な宇髄が言う。 「これ…潰しとかないと基地に向かう奴じゃね? 最悪あっちの移動...
そうして初めての組み合わせの3人で現場。 真剣な顔のしのぶと青ざめた善逸を背に宇髄が飄々とした様子で車を転がしていた。
夕食後、錆兎達と分かれて食堂を出て当たり前に宇髄の部屋に帰宅後、特別仕様の畳の部屋で炬燵にはいって寛ぐ宇髄のために日本茶をいれる善逸。 急須と湯呑の乗った盆を置いた時にはすでに炬燵の上には食堂からお持ち帰りした和菓子が用意してあった。
──錆兎様は絶対に左よねっ。天元様は…善逸君とだったら左っぽいけど、錆兎様とだったら右? ──え~っ?私、相手が変わるのは解釈違いなんだけどぉ~! ──私、左はね、変わってもOKだけど、右はいやかなぁ。 ──う~ん…同じくではあるんだけど、善逸君の左が錆兎君とかは想像できないかな...
義勇の面倒をみる…カナエに続いて百舞子にもそう約束してしまった錆兎。 まあ面倒をみるのはいい。 自分の忙しさに義勇を付き合わせてしまうことにはなるが、その分、ふつうなら使えない第三段階の羅刹を常時使えるので任務はサクサク進むし、まるで新妻のように楽し気に家事に勤しむ義勇も可愛いし...
──それで?結局財布になれとかじゃないのか?ないならどうしろと言うんだ? と、錆兎はそこでふと話題が逸れていることに気づいて話を戻した。 ──ああ、それなんですけどね、そういうことなら財布も欲しいけどそれよりも… と、百舞子も本題に入ることに異論はないらしく、話を戻す。
え?脱ぐ?! とりあえず脱ぐってなんだっ?!! 正直錆兎はこんな仕事をやっていて、急なことにも無茶ぶりにも不本意ながら慣れてしまっているが、それでもいきなりなそのわけのわからない要求にぽか~んと固まった。
──あ~…モブ子さんですか…… 義勇を蜜璃に預けたあと、アポを取ろうと思ってブレイン部に連絡を入れれば、応対に出た職員はモブ子のことはしのぶに聞いてくれと言われた。
とりあえず…義勇が起きる前にとかけた電話の向こうでは、宇髄に ──甘やかさねえでも良いから。俺らは色々慣れるしかねえってのを誰よりわかってる。 と断言された。