青い大地の果てにあるものsbg_第103章_落ちた日

そうして駆け付けてみれば失血死しかけている天元と号泣している善逸。

なんだか最後のお別れをしているお涙頂戴の現場に来てしまったらしいが、そんな暇があったら周りの雑魚敵を先に殺れと声を大にして言いたい。

しかしながら怒鳴るよりも手を動かした方が早そうなので、義勇に
(…天元の傷は全回復させず五割くらいは残しとけ)
と命じつつ、錆兎はちゃっちゃと雑魚を一掃した。

すぐ簡単に死ねば良いと思いたがる宇髄もだが、善逸も善逸で優しく人がいいのはいいが、メンタルが弱すぎる。
第二段階うんぬん以前にその豆腐のように柔らかすぎる心をもう少し鍛えた方が良いと錆兎は思った。

とりあえず義勇が自分を全回復しないのは錆兎の命だというので文句タラタラな宇髄にしっかりと説教をくれたあと、この中でただ一人情に流されずに冷静に行動したしのぶが善逸の泣き声で頭が痛くなると言うので、彼女に免じて宇髄を全快させることを許可する。

こうして表面上は淡々と波乱含みだった任務が終了し、最初の自分たちの本来の任務の分だけ報告書を提出すると、錆兎は義勇を連れて部屋に戻った。

その間…義勇はほぼ無言である。
ああ…無理させて我慢させてるよな…と錆兎は思った。

部屋で落ち着くなり、
「お茶…いれてくるね?」
とどこか元気のない笑みを浮かべてキッチンへと足を運びかける義勇の手を取って、錆兎は義勇を引き寄せた。

錆兎は元々しっかりきっぱりとした性格で、どうするべきかと悩むことはほとんどないが、義勇と出会ってからはどうするべき、ではなく、どうしてやった方がいいのか…ということでしばしば悩む。

理性や合理性ではなく、少しでも心地よく、気持ちが楽になるように…などと抽象的な考え方をしたことは今までなかったと言っていいほどなのに、義勇といるとなんだか心の柔らかい部分をひどく刺激される気がした。

「…お前を…悲しませたくない。泣かせたくない。
幸せで居て欲しい。
そんなことを言われても、こんなご時世でこんな状況では無理だと言うことも無茶を言っていると言うこともわかっているんだが…」

そう言うと義勇は目をぱちくりさせた。
そんな様子はなんだか子どものようで愛らしい。
この感情はなんなんだろうか…と真菰に問えば、おそらく『庇護欲か恋情か微妙なところだね。自分でもわかっていないあたりが朴念仁の錆兎らしいけど』と容赦のない言葉が返ってきそうだ。

まあいい。
庇護欲だろうと恋情だろうと、とにかく義勇には笑っていて欲しいのだ。
そして…どうしても泣きたいというなら、自分が安心して泣ける場所になりたい。

そう思っていると、義勇の大きな丸い瞳からポロリと涙が零れ落ちた。
泣いている…だが顔は笑顔なのでよくわからず、錆兎の方が目を丸くすると、義勇がぎゅうっと抱き着いてきた。

──うん…。大丈夫。錆兎がそばに居てくれるなら、俺、ちゃんと笑えるよ?

なんて健気で切なくて…なのに愛らしくて愛おしい言葉なのだろうか…と錆兎は感心してしまう。

自分で言うのもなんだが、錆兎は自分をしっかり持っている方で、いつだって『したいこと』より『すべきこと』を優先してきたし、あまり感情が揺れる方ではなかったのだが、義勇といるとどうも調子が狂ってしまう。

たぶん自分はとっくに義勇に篭絡されている。
いつから?
突然?

そんな風に半ばパニックになる錆兎の脳内で
──仕方ないね。恋はするものじゃなくて落ちるものだからね。スット~ンと突然に。
と真菰が笑ってウィンクした気がした。










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