青い大地の果てにあるものsbg_第102章_救助要請

そんなある意味少し不穏で和やかな日常は本当に絶妙なバランスで成り立っている。

それはある日のことだった。
当たり前に出動を命じられて、錆兎がいつものように車の助手席のドアを開けて義勇を乗せた後、自分が運転席に座る。

そんなもうある意味日常だろ?それ撮って楽しいか?ということまで百舞子のカメラに収められてやや呆れながらも出発。

義勇が来てからもう習慣になった、第三段階の羅刹でサクっと倒して帰りは基地にすぐ戻るとまた何か申し付けられそうなので、少しだけ遠回りをしていこうかと直線距離ではない、やや回り道になるルートを取ることにした。

単に車の中でもいいから義勇を休ませてやりたかった。
錆兎的にはそれだけだったのだが、その選択が思わぬ命を救うことになる。

いきなり鳴る電話。
もしかして少し遠回りをしていたのがバレたか?と思ったが、カナエの声はそんな悠長な状況ではないことが即わかるほど切迫していた。

『錆兎君、今どこっ?!』
との言葉に、錆兎は少し迷って、しかし結局
「あ~…B8地点。
こっちのルートの方が時間はややかかるが道が良いし義勇が少しでも寝られるかと思って」
と正直に申告する。

それに対してカナエの大きなため息。
呆れられたか?と思ったが
『ああ…良かった…。そっちに行っててくれて…』
とため息とともに漏れる言葉にこちらの方で何か非常事態があったことを知る。

こうなればもう引き受けないという選択肢はないだろう。
これをこなして帰ったら今度こそ義勇の分だけでも休暇をもぎとろうと決心しつつ錆兎が
「…何か手伝うか?」
と言うと、カナエは
『ありがとう、頼むわ…』
と心底ホッとしたように礼を言った後に、宇髄と善逸は豪州支部と極東支部を壊滅させたイヴィルらしい敵と対峙していて、車に戻ったしのぶから応援要請が来ていることを告げてきた。

「あ~、それは一大事だな」
と口では淡々と、しかしハンドルは大胆にきって、キキ~ッ!!とタイヤ音を響かせながら、錆兎は彼らが現在応戦中だという地点に向かう。

通常のルートで戻っていれば随分と時間がかかる場所だったが、こちらのルートならすぐ着ける。

カナエとの通話を切って隣にチラリと意識を向けると、義勇がまるで寒さに震えるようにカチカチと歯を鳴らしながら、
──…さびと…どうしよう……天元死んだらどうしよう……
と涙を零していた。

ああ、あのクソ馬鹿がっ!情報を司る役割の家系なんだから、情報を守るために死なずに逃げるのはお手のものだろうっ!と、心の中で宇髄に対して毒づく。

戦闘でパニックになった部下や同僚を落ち着かせるのは得意でも、泣く子どもを慰めるのは正直得意じゃない。

どうしていいかわからない。
でも放置もできない、したくない。

結果…錆兎はいったん車を停めた。
それに気づいて義勇が不思議そうにこちらに潤んだまあるい青い目を向ける。

「…悪い…俺はこういう時にどう慰めて良いとか本当にわからないんだ…」
錆兎はシートベルトをいったん外して助手席の義勇に覆いかぶさるようにその細い体をだきしめた。

「でもここからだとすぐだし、大丈夫、間に合うし助けるから泣くな。
泣かないでくれ…俺が動揺するから…」

完全無欠の総帥様の跡取りとして育てられたにしてはなさけない言葉だが、しかたない。
どうしてだかわからないが、義勇が悲しそうに泣くとなんだかひどく胸が痛くて落ち着かない気持ちになるのだ。

義勇はと言うとそんな錆兎をぎゅうっと抱きしめ返すと、
──うん…そうだよね。わかってる。もう大丈夫。現場に向かって
と気丈にも泣き止んで涙の残る顔に笑みを浮かべる。

ああ、無理をさせている。
天元のやつ、義勇に無理をさせやがって…っ!
と、まるで百舞子のようなことを思いながら、錆兎は
「ああ。もう少しだけ頑張ってくれ」
ともう一度ぎゅっと抱きしめる腕に力を入れると義勇から離れてシートベルトを着け、ほんの数分でつくであろうその地点へと再度車を走らせ始めた。













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