青い大地の果てにあるものsbg_第101章_染まる日常

今日も元気に任務待ちである。
ただしいつもと違うのは義勇の服。

黒にえんじ色の差し色の入ったチュニックにタイツ。
後ろには大きなリボンがついている。
それ…戦闘に着るのか?と思うようなデザインなのだが、なんと義勇の姉の蔦子がこっそり義勇の面倒をみてくれるようにとお付き役に派遣した百舞子と言う名のブレイン女性が、その蔦子が義勇に着せたがっていたというデザイン画から蔦子の形見のえんじの服をところどころに縫い込んで作ったという戦闘用の服らしい。

本当かよ?と思わないでもない錆兎だったが、義勇が当たり前に喜んできていることを考えると、あながち嘘ではないというか…嘘だったとしても義勇の日常ではありがちなことだったのだろう。
それを否定するつもりはないし、今の状況を考えると否定できない。

なるべく負担なく慣れた状況で…とそこは納得するわけなのだが、これで戦えるのか?とそれだけは気になって聞いてみると、百舞子から即
──まさか義勇君を前に出したりしませんよね?!
と、なかなかおっかない顔で返されて、あ~、そうだったな…と、義勇が本来は立ち回りをしないヒーラーなのだとそこでようやく合点がいった。

「すまんすまん。
今まで本部ではヒーラーが居なかったから立ち回りをしないという認識が欠けてた」
と、そこは何度も一緒に出てわかっているはずの事実がすぽ~んと抜けていたことを認めて謝罪すると、百舞子は蔦子がお目付け役として付けるだけあって保護者のような役割もあるのか、
「ああ、そうでしたか。良かったです」
と彼女の方も納得したようにホッと息を吐きだした。


義勇を自室に引き取ってから必然的に百舞子との接触も多くなったが、彼女を見ていると義勇の姉は本当にこれに義勇を託して良かったのか?と少し思うところは出てくる。

いや、大変失礼ではあるのだが…
一応ブレイン歴は長く、情報管理に長けていて几帳面で仕事はできるらしい。
そのあたりはカナエ…の話では心もとないが、他人にシビアな妹のしのぶが言うのだから間違いはないだろう。

──あの特殊性癖がなければ優秀な隊員ですよ?
としのぶがいう、その特殊性癖の方がものすごい。


もともと写真が趣味で極東一の美女と名高い義勇の姉の蔦子を撮りたくて特攻したのが始まりだと言う。
そこで蔦子にその写真の腕を買われて義勇の成長記録を撮り始めて幾星霜。

彼女が本部に来る時に持ってきた荷物のほとんどがその膨大な量の義勇のデータを収めたディスクと…そしてそれを現像してファイリングしたアルバム。
自分の服やらなんやらは?と聞いてみれば
「そんなもんこっちで買えばいいじゃないですかっ。
義勇君の貴重な写真はお金じゃ手に入りませんからっ」
と力説されて、思わず勢いに押されて頷いてしまったくらいだ。

そう、その義勇の写真にかける勢いがすごい。
錆兎が義勇の保護者兼護衛に抜擢されて彼女に話をと思ってアポを取って会ってからは、義勇だけじゃなくその隣に立つならと錆兎の衣装まで持ってくる。

まあ…幸いにして錆兎の方は別にフリフリをなどと言われることがないのが幸いだ。
あの勢いで来られたら、断るのに苦労する気がする。

今回も愛用の戦闘服がだいぶくたびれて来ていたのもあって百舞子が用意すると張り切っていたのでどんなものが届くのかと戦々恐々としていたら、袖や胸元にわずかにえんじの差し色が入っているものの、全体的には黒のシックなデザインで、差し出された箱からそれを出した瞬間に心の底からホッとした。

…が、それは甘かったらしい。
それを錆兎が認識するかしないかから始まる撮影会。
百舞子に恐ろしい勢いで着るように命じられて着替えると、色々な場所、色々な構図でパシャパシャパシャ。

皆が何事かと振り返るのがなかなか恥ずかしい。

そして次第に集まる乙女達。
その中にカナエも居た気がするのは気のせいだろうか…。


最終的にもうどこに誰がいるやらわからないくらいの女性陣に囲まれていると、
──お~、やってるね。撮影会。
と真菰が笑顔で通り過ぎる。

それに、
(…たすけてくれ)
と口バクで助けを求めると、笑顔で振り返った真菰が手と口パクで
(…義勇ちゃん、見てみなよ?)
と告げてくるのですぐ隣の義勇を見下ろすと、なんだかとっても幸せそうに笑っていて、それを見てしまうと、もういいか…という気分になってしまった。

本当に…まだ唯一の肉親を亡くして大して経っていないのに任務に引っ張りまわされている義勇がこれくらいのことで笑ってくれるのだったら、よしとしよう。

そう思ったら錆兎も自然に笑みがこぼれていたらしい。


──あ、良い笑顔!頂きっ!!
と百舞子の声とともにシャッター音。
はしゃぐ女性陣の楽し気な華やかな声。

こうして硬質だった錆兎の世界が少しずつ義勇に染まっていくのであった。








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