青い大地の果てにあるものsbg_第88章_左?右?気になる視線

──錆兎様は絶対に左よねっ。天元様は…善逸君とだったら左っぽいけど、錆兎様とだったら右?
──え~っ?私、相手が変わるのは解釈違いなんだけどぉ~!
──私、左はね、変わってもOKだけど、右はいやかなぁ。
──う~ん…同じくではあるんだけど、善逸君の左が錆兎君とかは想像できないかなぁ。
──わかる~~!私、義勇ちゃん総受け派。

今日も腐ったお嬢さんたちは元気である。

日々習慣となった鍛錬室で棒術の鍛錬をする宇髄に付き合っての鍛錬室通い。
しかし善逸自身は鍛錬をしないので、ただ座って見ている日々。
そうすると、だ、いやでも聞こえてくる見学者のお嬢様達の声。

錆兎あたりはジャスティスでも古参組と言われてもう別格で、扱いが3人の本部長レベルなので、彼女達も一応妄想しないでもないのだろうがバレないようにコソコソっと話しているようだが、善逸にはそういう気遣いもない。
聞こえるのも構わないような音量で妄想を語ってくれる。

一定数の夢女子派とそれより少しばかり多い腐女子派。
錆兎や宇髄…あとは極々少数炭治郎に対する夢女子はいるが、何故か善逸の名があがるのは、全て腐女子からだ。

女の子大好きな善逸としては大変不本意ではあるのだが、じゃあ女の子から告白されたとしても、今は通常の戦闘任務の他に宇髄のフォローをと命じられているので、そちらを優先するとお付き合いに時間を割く余裕はない。
だから今は仕方がないのだ…と自分を納得させる。

ただ善逸的に不満が残るのは己への扱いについてだ。
彼女達は男役を左、攻めなどと呼び、女役を右、受けなどと呼ぶのだが、善逸は誰と一緒でも右側に配置されるらしい。

善逸も錆兎とかが相手なら仕方ないと思う。
自分が男女こだわらない性格だったとしても、あれを組み敷ける気もしなければ組み敷きたいとも思わない。
宇髄はまあ…綺麗系ではあるが、自分よりは背も高いし仕方ない。
だが、炭治郎は別だ。
体格だって同じくらいだし、ジャスティスとしては同期で鬼殺隊礫から言ったらフリーダム時代を合わせたら善逸の方が長いくらいである。
なのに何故自分が右?!

いや、恋愛対象が一応異性な善逸としては同性相手に言われる時点で楽しくはないのだが、それでもその一点はこだわりたいところだ。
何故自分は誰との組み合わせでも右側になるのか…

そんな疑問を抱えながらその日も鍛錬を終えた宇髄と部屋に戻り、風呂で汗を流した宇髄の髪を丁寧に拭いてやり、そしてたまには…と夕食を摂りに食堂に出向くと、ちょうど任務帰りでこちらも普段は来ない食堂に夕食を摂りに来た錆兎と義勇に出会った。

錆兎に言わせると義勇は料理はとても上手いらしいが、何故か食べるのは下手だ。
たまに一緒に食事を摂るといつも口元を汚しながら食べていて、錆兎が当たり前に拭いてやったり、なんなら口元についた米を指先で取ってやったあとに、それを自分の口に放り込むなど、まるで親のように世話を焼いている。
さらに今日は任務帰りで面倒だったのか、自分の箸で自分の口に運ぶついでに義勇の口に食べ物を運んでやっていた。
当然周りのお嬢様達は大喜びでそれを遠くから熱い目で観察している。

そんな強い視線を気にすることなく、宇髄は当たり前になんとなく誰も近寄れない錆兎の正面の席へ。
当然善逸はその隣でそんな錆兎と義勇を真正面から見ることになった。

まるで親からエサを貰うひな鳥のようにア~ンと口を開けて錆兎の箸を待つ義勇は可愛らしいと言えば可愛らしいが、それを熱い目で見るお嬢様達の視線が気になったりしないものなのだろうか…

「え~っとさ、義勇ちゃん?」
と声をかける善逸。

この呼び方だって最初は”さん”だったり”君”だったりしたはずなのだが、いつのまにか真菰あたりが呼び始めたのが定着してしまって、義勇のことは少年なのに”ちゃん付け”している人間が多くなってきている。
善逸もなんとなくそうしてしまっているのだが、彼は善逸以上に保護される少女のような扱いになってきている自分に対して思うところはないのだろうか…。

怒るかな?怒ったらどうしよう…と少しばかりドキドキしながら善逸がそんなあたりのことを
──気にならないの?
と聞くと、義勇が答える前に隣で宇髄が
──そういうの気になんだったらこういう状況に甘んじてねえだろっ
と、錆兎に甘えるように世話を焼かれている義勇を指さして笑う。

それに義勇は少しばかりムッとしたように眉を寄せるが、そこから出てきた言葉は
──人を指さすのは良くないぞ、天元
と言う言葉で、言われていること自体は気にならないらしい。
宇髄にそう注意を促したあとで善逸に視線を向けた時にはいつものおっとりとした表情で言う。

「気にならないかな?
だってそれで錆兎が俺を一番に気にしてくれているということを基地全体に知らしめることができるなら歓迎するし、皆が俺を保護しなければと思ってくれているならそれも歓迎する。
だって優しくされるの好きだから。
むしろ変に粘着してくる奴も喧嘩ふっかけてくる奴もいなくなって平和だよ?
さすがジャスティス最強の錆兎だけある。
…あとは……」

──ほら、こういう奴なんだよ、こいつはっ。
とまた笑う宇髄には
──天元はうるさい
とぴしゃりと言ったあと、義勇はさらに
「俺が錆兎と楽しく過ごすだけで殺伐とした職場で働くお姉さま達に娯楽まで提供できてるんだから、いいんじゃないかと思うよ?」
と実に前向きな言葉を返して来た。

義勇いわく…極東でもブレインの女性達はよく面倒をみてくれていたから働く女性達には出来るだけ心地よく過ごしてもらえると嬉しいとのことである。

このあたりが支部内で生まれ育ってそこの女性陣に子守をされて育った根っからの弟気質の義勇の義勇たるゆえんといったところだろうか。

まあ言われてみれば善逸だって女性達に優しくされるのは嬉しいし、好意的に接してこられること自体は悪くはない。
実害があるわけでもないし、義勇のようにポジティブに受け取る方が平和なのだろう。
善逸はそう割り切ることにして、それでも気になる視線を振り切るように目の前の食事を片付けることに没頭することにした。










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