義勇の面倒をみる…カナエに続いて百舞子にもそう約束してしまった錆兎。
まあ面倒をみるのはいい。
自分の忙しさに義勇を付き合わせてしまうことにはなるが、その分、ふつうなら使えない第三段階の羅刹を常時使えるので任務はサクサク進むし、まるで新妻のように楽し気に家事に勤しむ義勇も可愛いし料理も美味いので錆兎的には何も問題はない。
むしろ快適だ。
錆兎も手伝おうかと同居当初は考えたのだが、考えてみれば任務に追われ過ぎていて料理をしたことがないので手を出すだけ邪魔をしそうだし、義勇にも
──錆兎には俺の作った物を美味しく食べて欲しいからっ
と笑顔で言われるので甘えさせてもらっている。
その代わりに荷物持ちだとか力仕事は全てやることにした。
義勇も錆兎が離れるのを…というか、一人になるのを過剰に不安がるというのはあるが、だいたいは普通に過ごしているように見える。
たまに百舞子が訪ねて来て写真を撮ったり、カナエやブレインの女性陣を中心に本部の女性達が義勇が愛らしいためか一緒に居ると見に来てはしゃいでいたりと、まあ平和だ。
だが極東でも退避出来た人間と出来なかった人間が居て、義勇の姉はおそらく後者だという話は出来ないままである。
せめてもう少し本部の生活、そして自分に馴染んでから…安心して泣き言を言えるくらいになってから…と思うのは逃げだろうか…。
そんなことを考えながら、錆兎は束の間の平和な日常と言う奴を満喫することにしているのだ。
正直その手のメンタル的なことは本来は真菰の担当で、錆兎は得意とは言えない。
だから余裕がないのもあって、極東から来たジャスティスがもう一人いて、本来ならそちらも気にしなければいけないあたりまでは気が回らない。
──すまないが両方を見る余裕がない。そっちは頼む。
と、善逸にメッセで頼んだままだが、了承の旨の返信を受け取ったまま特にその後なにかあったという連絡はないため、上手くやってくれているのだろう。
本人は非常に自己肯定感が低いためそうは思っていないだろうが、実は善逸は真菰に次いでそのあたりのフォローが上手いので、安心して任せられた。
──総帥様、なんだって?
と、なんだか善逸の首根っこを掴んで帰宅するのが習慣になりつつある宇髄はそのままもうかつて知ったるになりつつある台所でせっせと夕飯を作る善逸の手元を覗き込む。
宇髄達が本部に来て数日後、極東支部が落ちた連絡が入ったあたりで善逸は錆兎から自分は義勇のフォローで手一杯なので宇髄の方のフォローを頼むと言うメッセを貰って、それからはほぼ一緒に過ごすようにしていた。
一応手一杯と言いつつも、夕方に定時連絡のように何か変わったことはないか?というメッセが来るが、義勇と違って宇髄は身内は彼らの一族の住んでいる里に居るか、もしくは出奔中ということで、極東支部には居ないのもあって、極東支部が落ちたことに対してのダメージは少ないように思われる。
今日も淡々と鍛錬室で棒術の鍛錬を終えて、女性陣に愛想を振りまいてきゃあきゃあ騒がれる中、当たり前に善逸を連れて自室に戻って、自分はシャワーで鍛錬の汗を流していて、善逸はその間に夕飯づくりだ。
なので善逸が──変わりはないよ。心配しないで…と返して送信すると、後ろから宇髄がいつのまにか風呂から上がって後ろから善逸のスマホの画面を覗いている。
それに善逸は苦笑して
「宇髄さん、髪、ちゃんと拭いてよ。
スマホが濡れるから」
と、宇髄が首からかけたタオルでその綺麗な銀色の髪から滴る水を拭いてやった。
善逸は宇髄は猫のようだと思う。
気位が高くて気まぐれで…ツンと澄ましているかと思うと、突然甘えてくる。
用心深くて物理的には非常に強くて抜け目がないくせに、本人に言うと怒るだろうから言わないが、内面的には用心深くて臆病で寂しがり屋だ。
特に錆兎に対してはお育ちから来る特別な感情があるらしく、義勇の方がより気にかけてやらねばならないという事情がわかってなお、自分の方を全く気にされていないと心細いらしい。
だから言ってやる。
「えっとね、いつもの定時連絡。
あっちは唯一の肉親を亡くした義勇君のフォローでいっぱいいっぱいらしいから、宇髄さんのことはくれぐれも気にかけてくれってことと、あとは、変わった様子があればすぐ知らせてくれって。
心配らしいよ?宇随さんも極東出身だしね。
だから大丈夫って言っておいた。
錆兎はそういうのなくても忙しすぎるくらいだし、そこに義勇ちゃんの世話が加わって、その上宇髄さんのことまでってなるとさすがに潰れちゃうかもだし、そうしたら人類終わっちゃうからね。
宇髄さんも俺じゃ不満かもしれないけど、何かあったらできる限りフォローしようと思ってるから、本当に何かダメになりそうならその前に言ってね?」
髪を拭く手を止めずにそう言ってやれば、本人は気づかれているとは思っていないだろうが、心配されているとの言葉にどこか満足げな様子で
「俺はぜんっぜん平気だけどなっ。強いし?」
と言うのが秘かに可愛い。
強いと可愛いって両立するんだな…と善逸は宇髄を見てしみじみと思うのだった。
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