青い大地の果てにあるものsbg_第89章_共同任務の始まり

夕食後、錆兎達と分かれて食堂を出て当たり前に宇髄の部屋に帰宅後、特別仕様の畳の部屋で炬燵にはいって寛ぐ宇髄のために日本茶をいれる善逸。

急須と湯呑の乗った盆を置いた時にはすでに炬燵の上には食堂からお持ち帰りした和菓子が用意してあった。

善逸的には別に食堂で食べれば良いと思うのだが、宇髄曰く
──熱湯でいれた煎茶なんかで食いたくねえ。それにどうせ寛いで食うなら和室だろ。
で、お持ち帰りが決定したのである。

まあ確かにとても良い煎茶を熱湯でいれるのはもったいないと善逸も思う。
しかしジャスティスである自分達が言えば食堂の職員はおそらくきっかり70度にはかった湯でいれてくれるだろう。
だが宇髄はどうでもいいことをわざわざ言うのはヤダと主張した。

善逸に対しては我儘言いたい放題のこの男が、なんでそれが仕事の食堂の職員にそれを言うのをためらうのかがわからない。

錆兎にそれを聞いたことがあるのだが、いわく
──あ~天元は仕事以外のことを他人に要求して良いって言う環境で育ってないからじゃないか?
と返ってきた。

そう言えば彼らの一族は宇髄の家系ともう一つの家系はそれぞれ錆兎の家系のために動く手足でしかないと育てられると錆兎や宇髄が言っていたか…
善逸もいい加減雑に虐げられて育ってきたが、彼らほどではないんだろうなと改めて思う。


宇髄は本当になんでもできる。
家事はもちろん、日曜大工のようなこととか、事務仕事、体力も筋力もあるから力仕事だってお手の物だ。
他人を一切頼らないでいることができるし、実際に他人に何かを頼むことなんてめったにないのだが、善逸と居ると全て丸投げの生活力のないダメ男のようになる。

それを人は見下されているからとみるか心を許されているからとみるかどちらかなのだろうが、善逸はと言うとそのどちらもかな?と思いつつも、それに対しては全くマイナスな感情を持つことはなかった。

なにしろなんでもかんでも頼んで来るのは別に宇髄に限ったことではなく、善逸を見下してくる人間と言うのもこれまで決して少なくはなかった。
そもそもが宇髄は確かに善逸を下に見るような言動もしばしばあるが、それは錆兎以外の全ての人間に対してなので、善逸を特別に見下しているわけではない気がする。

善逸も善逸でそんな環境で生きてきたので著しく自己肯定感が低い人間で、何もろくに出来ない自分がやれることがあるということに安心する人種だ。
だから頼まれごとをされるのは実は嫌いではない。

しかも宇髄は皆を平等に上から目線でけなしながらも、他にはけなすことで終わっているのに善逸には自分がして欲しいことをしっかりと言う。
そして善逸がそれをこなすと言葉は悪いのだが褒めた上で嬉しそうに笑うのだ。

もうなんというかはまっている。
人慣れない野良猫か何かが自分にだけは懐いてくれているようなそんな優越感のようなものを日々感じていて、宇髄と居るのは全く苦ではないどころか、あれこれ世話を焼いてやりたくなる。


宇髄達が本部に来てからかれこれ半月ほど経っていて、極東支部壊滅にひどく落ち込んでいた義勇も日々の忙しさと錆兎のフォローになんとなく落ち着いてきていた。
だから家族が死んだわけでもなく落ち込んだ様子も見せなかった宇髄には善逸も一応気を付けてはいたが、大丈夫そうだなと安堵し始めた頃である。

日々宇髄に誘われるまま常に宇髄の傍に居て宇髄の部屋に寝泊まりをしていたものの、唯一任務の時だけは二人とも遠隔系だったので別々だった。

だがその日は少々特別な日だった。

錆兎と義勇は二人で任務に出ている。
義勇が居れば錆兎の攻守共に無敵モードともいえる第三段階が常時使用可能になるため、最近では少し重めの任務でも二人きりで出ていることが多い。

そのうえで真菰は単騎で任務に出ていて、このところ激しくなった敵の攻勢に備えて余裕のあるうちに蜜璃も一人前になるようにと今までなら保護者…もとい真菰と一緒だった任務に今日は真菰抜きで、しかしソロだと何かあった時に心もとなかろうと最悪撤退できるように守りのために炭治郎が付いた。

それらの現場が基地をぐるっと囲むように発生しているので、それぞれ突破されない限りは基地の方は大丈夫そうだと安堵していたのだが、そこに今度はもう一組の敵影が発見され、現在基地に居るのは遠隔二人と近接一人で、さあどうする?と相成った。

──天元君の呪文の発動まで多数の敵を引き付けておくのはしのぶじゃむりよね…
と、片手を頬に当てて困ったように眉尻を下げるカナエの言葉に俯くしのぶ。

…錆兎兄さんだったら……と自分が目指すところである古参組の先輩の名を呟くあたり、やりたくないとか恐ろしいとかいうよりも、自分の力不足が悔しいようだ。

ぎゅっと握り締める拳。

──これはもう…不死川君の所で人員をお願いするしかないわね…
と、それの意味するところを察しつつも言うカナエに、宇髄はチラッチラッと自分の左右に居る善逸としのぶに目線をやって、そして小さく手をあげた。

「あ~、他にアタッカー居るなら俺が盾役やるぜ?
俺が雑魚全部引き受けて、しのぶと善逸がイヴィル攻撃。
イヴィル倒し終わったら全員で雑魚掃除ってどうよ?」
と言う言葉に、ああ、そう言えば以前第二段階で盾もどきが出来ると言っていたか…と全員が思い出した。

「ああ、それいいわねっ!
しのぶも真菰ちゃんがいない戦いに慣れておいた方がいいし、善逸君も炭治郎君と離れないといけなくなった時の予行で…」
両手を胸の前で合わせて笑顔のカナエ。

「そうね…。
蜜璃ちゃんだって単騎で出る訓練してるし、私も必要ね」
と、しのぶも頷く。

しかしながら善逸は青ざめた。

「…えっ……俺が炭治郎なしで?」
と思わず零すと宇髄が
「なんだよ、俺じゃ信用できねえってか?」
と不満げに言う。

それに善逸はやばっと思ってそれを慌てて否定した。

「そうじゃなくてっ!
信用できないのは宇随さんじゃなくて俺の方なのっ!
炭治郎はさ、俺のダメさ加減がわかってるから、いつも俺がミスする前提でフォローできるような体制をとっててくれてるから……」

滅多に他人を信用しない宇髄がどうやら自分のことを信用してくれているようなのに自分の方が信用していないとか思われたら終わる。
炭治郎は臆病な善逸が気後れしてミスすることに慣れているのだ、と、宇髄の問題ではなく善逸の方の問題なのだと強調すれば、宇髄は善逸の目を見てじ~っと何か考えている。

「えっとね…俺、基本的に戦場出るの怖いのね。
めっちゃ臆病で出来れば逃げたいと思いながら出てるから、失敗多いんだよ。
炭治郎にもいつもめちゃくちゃ怒られてて…」

善逸がそう言いつつ俯くと、宇髄の手が伸びてきてくしゃりと善逸の金色の頭を撫でまわした。

「安心しろ。俺は天才だからなっ!
攻撃に徹したら攻撃力最強だし、盾としても超優秀だから大船に乗ったつもりでいろや」

どうやら信じてもらえたらしい。
そして善逸の自信のなさも十分理解してくれたらしく、そう言って笑う。

カナエもそれにホッとしたように
「じゃあ天元君が盾でしのぶと善逸君が殲滅役ね」
と最終的にそう言って、3人任務が決定した。











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