いいもん…というのは本当だと宇髄は思っている。
普通は滅多にみられないジャスティスの第三段階。
宇髄のそれはしかし、今まで何度か問題なく使っていた。
死にそうになってもすぐ治る。
ただ…今回は今までとは違って義勇がいないので、宇髄の人生で最期の技になるだろう。
しかしためらいはない。
こんなもの、使う時に使えないなら出来たって意味がない。
命なんて必要な時に投げ出せないなら意味はないのだと育ってきた宇髄にとって、今がその技の使い時であり、また、命の投げ出し時でもあるのだ。
車の方へと撤退していくしのぶ。
それを追う敵がいないのを確認して駆け寄ってくる善逸。
一緒に逃げろよ…と思いながらも、この厄介な敵を絶対に倒せるのだと知らない善逸が、それでも自分のために自らの命も投げ出す覚悟で駆け寄ってくるのが嬉しい。
あの臆病な善逸が宇髄のためだけに一世一代の勇気を振り絞っているのだ。
(…男冥利に尽きるねぇ…)
とにやりと笑って、宇髄が
──派手に魅せるぜ?…百花繚乱!!
と棍に軽く指を置いて唱えると、棍はぱあっと光を放ち扇となり、辺り一面に埋もれるような桜吹雪をまきおこす。
大抵は第三段階と言うのはもう使わなければ事態を脱却できないという捨て身の状態で使うため、皆悲愴な決意で好きも嫌いもないものだが、宇髄はこの自分の第三段階が好きだった。
舞い散る桜吹雪。
生命が生まれる春という季節にぱあ~っと咲いて散るその花は宇髄が好きな花の一つで、どうせ保つことに重きを置かれない命なら、その花のように一番いい季節に派手に咲き誇って潔く散りたいといつも思っていた。
今までの自らの命は散らないのが前提だった時と違って、今回はこの技のあるべき姿のまま自分も咲いて散るのだと思えば、何故か不思議に気持ちが高揚する。
そんな宇髄の意志のまま、扇から飛び出して舞い踊る花びらはいったん主の左肩に負った傷口に吸い寄せられるように集まり、そこから流れるその血を吸って紅く染まった。
全ての花びらが血の色に染まると、宇髄はすっと扇を前に差し出す。
それにまた吸い寄せられる様に花びらが扇の周りをクルクルと舞い始めた。
そうして十分紅く染まった花びらに宇髄は満足げな笑みを浮かべると、
──散華
と静かに口にした。
すると何故か動けずにいたイヴィルにそれらが一斉に襲いかかりその身を覆い尽くす。
そして花びらは更に赤みを増し、ハラハラとその場に散って行った。
敵のいたはずの場所にはただ砂がサラサラと舞っている。
………
………
………
…やっぱ薬箱なしにこれやると終わるなぁ…ま、いいけどなっ
とシンとした空気を最後にこんな状況には不似合いなほど淡々とした宇髄の声が破った。
宇髄天元の第3段階百花繚乱。
術者の血を吸って生命を吹き込まれた桜の花びらが敵一体をどんな状況どんな相手でも確実に倒す能力なのだ。
本来は当然術者は極度の失血で命を失う。
今まで何度か使って命を拾ったのは義勇の治癒能力の為せる技だった。
残った雑魚は最初の宇髄の範囲魔法で足先だけ凍って動けずにいたのだが、そろそろ凍らせた足下の氷が溶けそうだ。
だが、戦うどころか目の前がかすんで立っているのもやっとでも、宇髄にはもう一仕事残っている。
──善逸…これからもう一発撃って時間稼いでやるから…その間にさっさと……
さすがに立つのも辛くて大きな杖に戻したジュエルで身を支えながらもそう言うが、善逸は泣きながらプルプルと首を横にふった。
──やだっ!もういいっ!俺も死ぬからっ!!一緒に死ぬ~っ!!
叫ぶ善逸に苦笑する宇髄。
──…いい…からっ…離れろっ…。巻き込まれるぞ…
──いいもんっ!一緒に巻き込まれて凍って死ぬんだからっ!!
泣きわめく善逸。
全く撤退する気のない善逸にさすがに宇髄も焦ってきた。
このままだと本当に氷が解けて敵が動き出して死ぬか、宇髄の魔法で死ぬか、どちらにしても二人揃ってお陀仏である。
──お前…なぁ…ジャスティスの自覚持てっ…無駄死にしたら…皆困るだろうが…っ…
と、柄にもなく説得をしようとしたのだが、そこで
──お前もだっ!馬鹿野郎っ!!
と、ゴン!!と頭に強烈な拳が降ってきた。
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