青い大地の果てにあるものsbg_第95章_イレギュラーな温かさ

3つ目のイレギュラーで死を覚悟しつつ色々と最期の計画を建て始めた宇髄。

とりあえずしのぶに指示したほうのイヴィルは弱い方の個体だったので偶然ではあるが我ながらいい判断だったと安堵した。

ここで善逸が即逃げればよし。
もししのぶを見捨てないという選択をしたとしたなら、しのぶが担当のイヴィルを倒した時点で彼女がこちらに来る前に撤退を命じよう。

そのために自分は絶対にこの最強レベルの個体を彼らの方に向かわせないために全力を尽くす。
……と思っていたのだが、ここで宇髄の中での最後のイレギュラーが起こった。

ひゅん!!と黄色い光を伴った善逸の矢。
しのぶの補佐をするために放たれたはずだったその矢は何故かしのぶではなく宇髄が対峙しているイヴィルへと放たれた。

──何してやがるっ!!刺激すんじゃねえっ!!
とさすがにポーカーフェイスも吹っ飛んで叫ぶ宇髄。

イヴィルの視線が宇髄から善逸に移った。
ダメだっ!!
時間がないっ!!

──しのぶっ!それも俺が取るから撤退っ!善逸連れてカナエに連絡っ!!

言いながら善逸に視線を向けているイヴィルを殴って自分の方へ向かせると、近距離アタッカーの跳躍力を信じて全ての敵を引き連れてしのぶが対峙するイヴィルを目指して走る。

しのぶは状況が飲み込めないながらも非常事態なのだと言うことだけは察したらしい。
──了解っ!!
と、即後方の善逸の位置まで跳躍した。

そうしておいて、
──善逸さん、撤退ですよっ!!
と善逸の腕を取るが、善逸は泣きながらいやいやと言うように首を横に振る。

──善逸さんっ!!
と叱責するしのぶ。

それに善逸は
──だってっ…あれはダメな奴っ…宇髄さん、死んじゃうよっ……
と涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして言いつつ動こうとしない。

感知能力に優れている遠隔ジャスティスの善逸には自分達を逃がすためにかなり無理をしてしのぶの担当のイヴィルまで取ったことで宇髄が負った傷も見えるし流している血の匂いだって感じてしまう。

戦いが苦手を通り越して嫌いな善逸だが、どうしても逃げるのは嫌だった。

──俺…死ぬからっ…宇髄さんと死ぬからっ…カナエさんに伝えてっ…
と弓をつがえる善逸。
聡いしのぶはそれで宇髄の撤退の指示の理由を悟ったようだ。

──もうっ!!私は本部に知らせにいきますっ!
と、埒が明かないとばかりに善逸を放置で車に向かって跳躍した。


皮肉なことに臆病な善逸は動揺しすぎて何も考える余裕がないくらいの方が攻撃の正確さが増すらしい。

しのぶを追いかけていたイヴィルを宇髄がなんとか自分の方に向かせると、なんと一撃で仕留めてきた。

単発で複数の敵に非常に弱い代わりにその一撃は本部ジャスティスの中でも最強クラスだと言っていた真菰の言葉に大いに納得してしまう。
同じ遠隔でも宇髄の攻撃は範囲魔法で複数攻撃できる代わりに雑魚の魔導生物ですら数匹は残る程度の威力なので対照的だ。

ほぉ…と仲間のイヴィルを一撃で倒す善逸の方に視線を向ける強力なイヴィル。
まずい…と舌打ちする宇髄。

素直に逃げてくれれば…と思っていたので余計なことを…とは思った。
が、同時に耳の良い宇髄には撤退を促すしのぶに返した善逸の言葉も全部聞こえていて、昔、錆兎が跡取り様だった頃聞いたあの言葉くらいには温かい気分になる。

(…あ~、最期に良い気分にさせてもらったぜ…)
ともうなんだかすごく嬉しくて…自分の最期についての覚悟は決まっていて後悔もないのに、あのお人よしともう一緒に過ごせないのはなんだか残念な気分になった。

だが…それでもイヴィルを善逸の方に向かわせるという選択肢だけは阻止である。

──おいおい、あっちばかり気にすんなよ。いいもん見せてやるから。
と宇髄は相手に知能があるという前提で声をかけた。










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