青い大地の果てにあるものsbg_第97章_命の重さ

ああ、良い人生だった…と清々しく閉じるはずだった宇髄の人生の幕は、強引に開けられるどころか引きちぎられたらしい。

他に居ないからと宇髄が盾をやる前提で遠隔の善逸とまだやや半人前風味の前衛アタッカーのしのぶを連れて出たイレギュラー任務。

これにさらに1体なはずのイヴィルがもう一体いたというイレギュラーがおきて、もうこれでイレギュラーはお腹いっぱいという状況だったのに、さらにその一体が豪州支部を壊滅させた特別強力なイヴィルだったという最悪なイレギュラー状態でのことだった。

それを第三段階でなんとかかんとか倒して、最期のご奉公に雑魚を足止めして善逸を逃がすかと思っていたら、当の善逸は泣きながら一緒に魔法を食らって死ぬのだと言い張る。

もうどうするよ、これ。
本当に一緒に死ぬか?
と半ばあきらめかけていた時、よく言われるヒーローは遅れてくるの言葉を体現すべく、いきなり現れて瀕死の宇髄の頭に拳骨を落としたのは、我らが敬愛する総帥様だった。

もちろん、その隣には歩く薬箱こと義勇。
致命傷を負っていた宇髄は瞬時に死なない程度に回復させられる。
そうしてしのぶが待つ車に放り込まれた。


──…で?痛えんだけど?義勇

明らか怒った顔の錆兎。

その隣では彼の隣に居られるだけで全てがOKな元相方が、何故そこでほわほわと笑っている?と小一時間問い詰めたくなるような笑顔を浮かべながら
──だって、錆兎が全部は治すなって言うから。
とふざけた発言をしてくれる。

え?なに?お前は俺よりも総帥様?と言いかけて、しかし、まあそうだよな、相手は総帥様だし?…と思い直して諦めのため息をつく。

そしてこちらにこれ以上言っても無駄だと思って、今度は出来れば突きたくない激怒の総裁様に顔をむけた。

──…痛えんだけど?
──…だろうな。怪我は死なない程度に残しておけと言っておいたから
──なんで?
──当たり前だろうっ!お前達は死を軽く見過ぎだっ!
 
お前”達”と複数系になっているというのは、アレと一緒にされているのだろうか…と宇髄は若干不本意に思う。
だが、それを言ったら、大いに同意されそうなのでスルー。

その代わりに
──…一族から見限られたくなけりゃ、雲のように軽く考えろと言われて育ったんだけどな?
とチクリと嫌味を言ってみた。

しかしそこはさすが偉い総帥様。
──俺は言ってないぞっ。
とのたまわる。

ああ、そうだよな、そうでございますね。
あなた様が言ったわけじゃありませんねっ!
と宇髄は拗ねてみたくなったのだが、そこを先回りして言われた。

「お前の兄貴…渓嵐にも言ったけどな?
何かを大切に思うなら、その何かはお前に簡単に命を落とされても迷惑だ。
死のうと思うよりぎりぎりまで生にしがみついて生きて役に立つべきだろう。
今で言うなら鬼殺隊は人材不足だからなっ。
特にジャスティスは最近豪州支部の二人が死んだから、お前まで死ねば生き残った奴らの負担がとてつもなく増える。
だから血反吐を吐こうがぎりぎりまで生きて戻る努力をしろっ」

「…容赦ねえ……」

「当たり前だっ!
俺はもう”総帥様”ではないわけだが…実質古参組として本部ジャスティスの仕切りも任されているからな。
簡単に死ねばいいなんて切り捨てられる部下は要らん。
手足の一本を失くそうが必死に生に食らいつけ。
そうすれば俺は根性で引きずって帰るから」

「………うん……」

以前…義勇の父親が亡くなって逃げ帰った宗家で”新しい跡取り様”に追い返されて以来、自分の帰るところはないのだ、根無し草になったのだと思ったが、そうではなかったらしい。

ヘタレな同僚は逃げろと言うのに泣きながら運命を共にしようとするし、とっくに上司ではなくなったはずの若様はいまだに自分を仕切って仕切って仕切りまくる気でいるようだ。

とんでもなく面倒だと思うのになんだか安堵で泣きそうな気分になるのはどうしてだろう…。
思わず涙をこらえて俯くと、今度は騒々しいヘタレが
「宇髄さん、痛い?!もしかして傷が痛む?!
義勇ちゃん、お願いだから治してあげてよっ!
今後俺の時に治さないでもいいからさっ!
今回は宇髄さん、すっごく頑張ってくれたんだよっ!
俺としのぶちゃんを逃がすために一人で頑張ってくれたのっ!!
お願いっ!!一生のお願いだからっ!!」
と義勇に向かって号泣し始める。

おいやめろ、恥ずかしいからっ!
お前馬鹿かっ?!
別にお前のためでもしのぶのためでもねえよっ!!
と声を大にして叫びたい。
でも口を開いたらなんだか泣きそうだ。

結局あまりの善逸のうるささにしのぶが鼓膜が破れると半泣きで訴えたことで、錆兎がくれぐれも反省しろと苦言を呈した上で義勇に命じて傷を綺麗に治させる。

それでも泣いて泣いて泣いて…泣き疲れて眠ってしまった善逸は、”総帥様”の命令で、宇髄が責任をもって引き取る代わりに報告書はしのぶが書いて、後日宇髄が書き足すと言う形でとてつもなく色々あり過ぎた任務が終わったのであった。







0 件のコメント :

コメントを投稿