──…宇随さん…もう痛くない?
夜…任務の帰りに泣き寝入った善逸が起きて来ての第一声がそれだ。
臆病でヘタレなくせに、自分より遥かに色々強い宇髄のことを気にかけるとか、馬鹿か?こいつは…と思いながらも、それがなんだか心地いい。
それよりお前、総帥様の言ったこと覚えてるか?
意味なく一緒に死ぬとかはなしだ。
今日みたいなことがあったら自分だけでも必死に逃げろ。
生きて他人様の役にたてよ?」
おそらく自分は好きな子はイジメたくなるタイプなのだろう。
ついでに幼少時からずっと愛情を受けずに育ってきたため、それを与えられるかもと思えば試し行動のようなことをしたくなるのだ。
…と、そんな自己分析をしつつ宇髄が口にした言葉に、善逸は宇髄の予想を裏切らず、だ~~っと滝のような涙を垂れ流す。
「やだっ!だって嫌だよっ。
俺、自分が痛いのも辛いのもやだけど、宇髄さんが怪我するのはもっとやだぁ!」
そう言うなり、もうあとは、ごめんね、俺弱くてごめんね、強くなくてごめんね、と、ひたすら泣きながら謝り続けた。
宇髄は主に情報を司る、旅人の喜びという花言葉の鉄線を家紋に頂く家系で、一族は皆、情報を収集するのに入り込みやすいように美形揃いだ。
母も叔母も従姉弟たちも皆美形で、綺麗な顔の人間なんて当たり前に見て育っているし、なんなら鏡を見ればとびきり美形の自分を日々見られる。
一方で今目の前で泣いている少年はと言うと、元々の顔は美形と言うよりは庶民的で人の好さそうな感じの可愛らしい顔立ちなのだが、今はそれさえも涙と鼻水でぐちゃぐちゃで見る影もない。
なのにその小汚くなった顔が何より可愛いと思うのがイカレていると自分でも思った。
──きったねえ顔してっ
なんて意地悪な言葉と共に乱暴にその顔を拭いてやりながら、宇髄は自分を指さして言う。
「あのな、俺は最強だからな?
さっきのイヴィルは前衛と後衛ですごくバランスが良くて強かったジャスティス二人がかりで敵わなくて豪州支部が壊滅した原因になった特別仕様のすっげえ強い奴だったけど、倒せただろ?
普通の敵なんかじゃ怪我を負わせられるなんてこともねえよ。
これからもしまた一緒に出ることがあったとしても、そういうことだから安心して俺が食いたくなるような美味い夕飯の献立でも考えてろ」
「…美味しい…ご飯……」
善逸はその言葉に少し目を丸くして…そして、そうだねっ…となんだか可愛らしく笑った。
そうして
──ご飯ってさ…なんだかプロポーズみたいだ…
などと口にするので、今度は宇髄が固まってしまう。
その宇髄の反応を見て、善逸は自分の失言に気づいたのか、慌てて
「ち、違うよ、わかってるっ!宇随さん綺麗だし強いしモテるしねっ!
俺がどうとかじゃなくてっ……」
と顔の前で手を振るが、宇髄はガシッとその善逸の手首をつかむと、
「そう。こんなに美形で賢くて強い宇髄天元様がもらってやるって言ってんだから、素直にもらわれときな?」
とにやりと笑った。
「えっ???」
と驚く善逸はその言葉を理解する暇も与えられず、有無を言わさず寝台に連行される。
そうして日中に負けず劣らぬほど色々とあったその夜の翌朝は、起きられない善逸のために珍しく宇髄が食堂で朝食のテイクアウトをして帰ったのは言うまでもない。
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