青い大地の果てにあるものsbg_第99章_過労

「疲れたな…」
錆兎は部屋へ戻ろうとしたが、あまりの眠気に誘われる様に人気のない談話室に吸い込まれる様に入ると、そのまま窓際の椅子に腰をかけた。

今迄はちょっと治安の悪い地域の警察のような感じだった仕事が、最近は戦時下の軍隊化している。
この変化の予兆は丁度極東コンビと呼ばれている宇髄と義勇が来る少し前だから2ヶ月半ほど前、豪州支部が壊滅した頃から始まっていた。

レッドムーンが現れてから300年の均衡が確実に崩されてきている。
どんどん強くなる敵、激化する戦闘に耐えるため、今迄は誰も気にしなかった共鳴率という言葉がここにきて急に注目されてきた。

レッドムーンに造られた魔導生物や強化人間イヴィルに対抗しうる唯一の武器であるブレスドアームス。
それはジュエルが選んだジュエルと共鳴できる人間、ジャスティスのみが使える武器だ。

それ自体充分強力な武器ではあるが、それでもさらに共鳴率があがってくると、本来は各々に合わせた固定の形をしている武器の形を確認できている限りで3段階まで変える事ができ、その形態によって使える技の種類も変わってくる。

きっかけは錆兎だった。

他のジャスティスがみな手が塞がっていて出動できるのは近接系の錆兎、治癒系の義勇の2人きり。
初のコンビということもあるし若干心もとないということで、なんとフリーダムのボスである不死川が補佐に入ってくれることになった。

強さ的には普通に倒せないものではない。
だがいかんせん敵が多すぎて通常戦闘だと万が一があればまずいと考え、錆兎は使用後の負担が大きすぎて初めて使って以来長年封印していた第三段階羅刹モードを使うことにした。

禁じ技だっただけにその効果はすさまじく、しかもそれを禁じ技とした使用後の負担も義勇の治癒能力で著しく軽減された。
さらに極東コンビも二人ともそれぞれかなりお役立ちな第二段階の能力の持ち主だっという事がその戦いで判明したため、この第二段階以降の能力が一気に注目を浴びる事になった。

だが未だそれを使う本人達にすら共鳴率を上げる方法はわからず、まだ第二段階に目覚めていない残りの面々の共鳴率を上げる事が、今後激化する戦いの準備として急務となった。

しかし様々な修練を試している間だからといって敵は待ってはくれない。
それどころか日々出没回数は増えて行く。

必然的に…すでにその方面の修練が必要ない錆兎と義勇のコンビの出動回数が鬼の様な勢いで増えて行く。
もちろん真菰もいるが、古参組が二人とも遠出をすると基地に何かあった時に対応が難しいと言うことで、義勇の回復があればほぼ他を必要としない錆兎の方が出動組となっているのだ。

近場から遠距離まで、続けて回り連戦する事も増える。
まず体力のない義勇がダウンする。

それでも敵は待ってはくれない。
ゆえにイヴィルが一人以下の時は義勇を休ませて一人で回ろうと思うのだが、義勇は錆兎と離れるのを過剰に怖がる。
両親亡きあと唯一の肉親だった姉がつい最近亡くなったことを考えれば仕方ない事なのだろう。

──いやだ…錆兎、置いてかないでっ
ぎゅうっと錆兎の腕にしがみついて子どものように泣く義勇を、それでも振り切っていけるほど錆兎も非情にはなり切れない

なので結局一緒に出向いて、時には連戦の時に義勇を視界に入る位置に止めた車に残したまま休ませる形で自分は戦い、次の戦場へという風になる事も。

生活も限りなく不規則。移動は車で運転も錆兎だ。
これではさすがに鍛えている錆兎でもばてる。

それでも今日、明日は10日ぶりの休日のはずだった。
今日明日だけは敵が出現しても他ジャスティス全員使ってでも対処してくれるという事なのでゆっくりできる。

やりたい事…というよりやらなければならない事がたくさんあった。
まず最優先が義勇。

日本から中国、ロシア東半分までという広範囲を中~遠距離ジャスティスの宇髄と治癒系の義勇の二人だけで長年受け持って来たというだけあって、二人とも本部のジャスティスでは考えられない激務を当たり前にこなしていく。

しかし今回は本当に限界をはるかこえている。
笑顔で任務をこなしながら熱を出して倒れる事数回。

「大丈夫だから」
としか言わないが大丈夫なわけがない。
『無理』と言った瞬間に置いて行かれるのがわかっているからそう言っているだけというのは見え見えだ。

だからまずは強引にでも義勇を医務室へ連れて行って精密検査させて、カナエには義勇の分だけでも勤務状況の改善をさせないと、いつか過労死する。

もちろん自分も休みたいし、なんなら義勇が作った美味しい飯を食ってゆっくりしたいという欲求もなくはないが、とりあえずは自分より義勇だ。
面倒を見ろと言ったのはカナエの方なのだから、体調管理もその中に含まれるはずだ。

それが終わったら不死川を交えて一度カナエと他の共鳴率の状態と、今後の戦闘修練の方針を話し合わないと、このままだと自分達がもたない。
カナエがことさら自分に無理な欲求をぶつけてくるのは今に始まった事ではないが、今回は度を超えている。

しかも自分だけではない。
まだ真菰と宇髄が比較的タフなのは救いだが、自分ですらきついのだ。
こんな生活があと1ヶ月も続いたら確実に順番でつぶれる事うけあいだ。

さらにそれが終わったら自分も一度医療部で村田の健康チェックを受けたい。
体が資本だ。宇髄にももちろん勧めないと。
それで余裕があれば基本鍛錬も一通りきちんとしておきたいし…。

とりあえずここで少し休んだらまずは義勇を村田の所へ連れて行こう。
そんなことを考えつつ、錆兎はそのまま意識を手放した。










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