青い大地の果てにあるものsbg_第92章_戦略的撤退について

「敵は前方300から半径約15mの範囲に雑魚豹20、イヴィル1。
俺の範囲攻撃着弾でゴーで。
善逸としのぶは左側のイヴィルに向かえ。
左側のイヴィルが片付いたら次は右。
それが終わったら全員で残った雑魚の後片付けだ」
「ん~、でもそれだと全部敵が宇髄さんのほうくるんじゃ?」
「俺は最初の一発撃ったら即防御モードはいるから気にしないでいい。
それより二人とも、撤退も考えて敵の奥行くなよ?」

まあ無理は承知だが今までだって後衛二人きりで広範囲の地域を担当して戦い続けた日々だったのだ。
いつだって戦場は無理無茶無謀の3無し状態の連続である。
ということで宇髄は早々に覚悟を決めて覚悟が決まらぬ本部組の二人にそう言った。

敵はいったん自分が全部引き付けて面倒をみるから、その中から二人でイヴィルを一体引っぱって叩けと言うのは宇髄からすると本当に安全安心の余裕があるはずの提案だったのだが、そこで不安げな声を上げたのは善逸ではなく、なんとしのぶの方だった。

──…撤退…ですか…?

あ~、なるほど、そっちか…と宇髄は内心苦笑する。
常に大勢で常に完全に安全な戦いしかしてこなかった本部組らしい。

これが自分が最終的に全ての責任を負って被る覚悟で仕切ってきた錆兎や真菰なら即わかってもらえるのだろうが…と思いつつも、ここで揉めている時間はない。

「安全策な?
俺らで無理に怪我しながら叩くよりは、錆兎や真菰が基地に戻れてるんならそっちに任せた方がいいだろ?
勝利っつ~のは敵を殲滅することだけじゃねえ。
生きて…出来れば極力大きな怪我をせずに即次の任務に就ける状態を保つってのも作戦の一つだ。
さっきのカナエの話だと、予定よりも敵が多いから今基地に来られても困るが、錆兎や真菰が帰りついているなら無理せず撤退して奴らに任せろってことだったからな」
と、それが危機的状況によるものだけではなく、世の中には戦略的撤退というのもあるのだと教えてやる。

──なるほど。次の戦闘のことも考えて戦う…。そうですね、わかりました
と、これでしのぶは納得してくれたらしい。
すっきりした顔で頷いた。


ということで善逸が不安に泣きわめいているのは変わらないが、まあこちらはおそらくどうこうできる類のものではないのだろう。
実際に戦闘に入れば嫌でも戦うか…と判断して、宇髄は
──じゃ、そういうことで行くぞ~。発動っ!
と、自分のジュエルを杖に変形させた。

──胡蝶しのぶ、気合を入れていきますっ!モディフィケーション!
と、次いでしのぶがジュエルを発動させ、硬質なブーツが包み込んだ綺麗な足でトントンと地面を蹴る。

そこで泣きながらでも諦めたようだ。

善逸もさめざめと泣きながらだが
──怖くて嫌だけど仕方ない、希望、誠実、友情の石、トパーズ、モディフィケーション。
と自らのジュエルを大きな弓に変形させる。

こうして全員ジュエルの準備が整ったのを確認後、宇髄は改めて
──じゃ、景気よく行くぜ~!
と戦闘開幕の声をあげて杖を構えて詠唱の準備に入った。












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