kmt 義勇さんが頭を打ちました
嘘を上手につく方法はなるべく多くの真実の中に嘘を一つだけ混ぜることである。 …それが、宇髄の持論だ。 今回、事実をそのまま告げると柱同士の関係に亀裂が入るどころか崩壊しそうな気がするので、そのあたり、上手にまとめていかないとならないと思う。 さて、どう持っていくか…
「水柱様、代わりましょうか?」 小さな桶に入った水に浸した手ぬぐいをぎゅっと絞って眠ってしまっている義勇の額においてやっていると、そばにひかえていた雛鶴が遠慮がちに声をかけてきた。
──見つかったぞ~ びしょぬれになりながら水柱邸の玄関でそう叫ぶと、待ち構えていた隠がタオルを持って走り寄ってくる。
最後に意識があった時は、身体が雨でずぶぬれになっていて、とにかく冷たくて寒かった。 そこにいきなり現れた鬼は見た目は怖そうだったのになんだか優しい不思議な鬼である。 手にした羽織はわずかに血がついていて、なんだか慈しみに満ちた目でケホケホと咳き込んで逃げる事もできない義勇を見てい...
──なんだ…無事だったのかよ… 義勇が錆兎の家から飛び出して行ってしまったと聞いて数時間。
日が落ちて、雨まで降ってきたところに、錆兎はもう一つ最悪な場面に出くわした。 血だまりの中に折れた日輪刀… 衣服は散乱しているものの遺体がないということは、鬼の仕業だろう。
なんでも義勇より出来た錆兎が彼に敵わなかったことが二つある。 それが足の速さと気配の消し方だ。 おっとりしているように見えて、義勇は大変足が速い。
「は?逃げた??」 一方で宇髄との話し合いを終えて二人連れ立って自宅に戻った錆兎は、いつものように出迎えに出てこない義勇に不思議に思って、何故かいる不死川に話を聞くと、逃げたと言われて唖然とした。
半泣きになりながら路地裏を走り回っていると、少し離れた所で男二人が話す声が聞こえた。 ああ、助かった…と、安堵に肩をなでおろして、道を尋ねようと声の方へと走り寄ってみると、見慣れた制服を着ている。 どうやら鬼殺隊の隊士達のようだ。
ゆっくり湯を沸かしてゆっくり茶を淹れる。 それでも錆兎が戻ってくるまでおそらくあと1時間ほどある時間を潰せるわけはない。 なので義勇も諦めて、茶の入った客用の湯呑みと買い置きの羊羹を盆に乗せ、不死川の待つ居間へと戻って行った。 そうして茶の入った湯呑みを自分と不死川の前に置き、 ...
その日は珍しく錆兎が私的な外出をすると言うことだった。 仲の良い先輩柱宇髄が休みで、柱にもなると両方の休みが重なることもほぼないため、飯でもどうだと誘われたらしい。
「あがるぞォ~」 と一声かけて、不死川は水柱邸に上がり込んだ。
正直少しイライラしていた。 錆兎と居るのは嫌ではないが、義勇と錆兎が揃っているところに居合わせるのは好きではない。
義勇に関しての諸々は失敗だった…と不死川実弥はずっと後悔している。 最後に義勇に会ったあの日…不死川は任務を終えて報告を済ませた時に事務方に、ちょうど義勇が一人で任務の報告に来たばかりだと聞いた。
「…へ?記憶喪失?」 錆兎の話によると、彼の継子が記憶喪失らしい。 それで任務以外、極力継子の義勇と過ごすようにしているとのことだ。 「記憶がなくなってたら、そりゃあ、大変だな」 と、とりあえず入れる宇髄の合いの手に、しかし錆兎は 「いや、記憶がないこと事態は全く問題はないんだ」...
今では古参で柱の中心と言われている水柱、鱗滝錆兎は、宇髄の初めての後輩である。 宇髄自身、柱に任命されたのがちょうど新旧交代が始まった時期で、年を取ったり怪我を抱えつつも後続が育つまでと頑張っていた旧柱達がそろそろ引退をと思い始めていた頃だった。
…朝…鎹鴉が飛んできた。 鬼は夜しか出ないので、午前中に来るのは珍しい。 もしかして遠くの鬼を狩ってこいという連絡か?…と、錆兎はまだ眠っている義勇を起こさないようにそっと布団を抜け出したが、違ったようだ。
最近、義勇の様子がおかしい…。 記憶が戻らないのが長引いて、何か不安になっているんだろうか… ある日、任務が早く終わって家に戻ったら、義勇が台所で胸を押さえてしゃがみ込んで震えていた。 青ざめた顔…どこか苦しげな表情に潤んだ瞳。 体中からざ~っと血の気が引く思いで駆け寄ったが、居...
…ゆ……ぎゆ…う…… 心地よい声…みそ汁の良い匂い。 ああ…今日は休みだったか…
錆兎が罪悪感に悩みつつも幸せを噛み締めている頃、義勇もまた悩んでいた。 事の起こりは久々に錆兎に連れられて柱にしては軽めの任務に同行したあとのことである。 義勇は報告の練習に…と、1人で任務終了の報告手続きに行き、錆兎はちょうどその時刻に本部に居る柱の1人に話すことがあるとのこと...