義勇さんが頭を打ちました_12

「…へ?記憶喪失?」

錆兎の話によると、彼の継子が記憶喪失らしい。
それで任務以外、極力継子の義勇と過ごすようにしているとのことだ。

「記憶がなくなってたら、そりゃあ、大変だな」

と、とりあえず入れる宇髄の合いの手に、しかし錆兎は
「いや、記憶がないこと事態は全く問題はないんだ」
と、おいおい、と思うような事を言う。

「問題はないのかよ」
「ないな」
きっぱりと断言する錆兎。

「記憶がないと言っても家事とか日常生活については覚えているし、性格もそのまんまだから、俺としては欠片も問題はない」
とまで言い切りさえする。

義勇は本当に俺の愛らしい義勇のままなんだ…と断言されて、一瞬帰りたくなった。
というか、もう良いじゃないか、お館様に頼めば同性だろうと金と権力で戸籍くらい買ってくれるんじゃないか?
それで嫁にもらってしまえ。
誰も止めやしねえから…と、やけくそのように思う。

だが、一応何かあるから呼び出されているんだろう…と、宇髄も思い直した。

そして
「んじゃ、何が問題なんだよ?
何か相談したいことがあるから呼び出したんじゃねえのか?」
と、わけがわからずそう聞く宇髄に、錆兎はしょぼんと肩を落とした。

「俺的には問題はない。
むしろ今の状態だと義勇も普通に家に居てくれるし、危険な鬼狩りに同行させるよりはよほど精神衛生上良いんだが、義勇の方は当たり前だが記憶を失くしているという状況が心穏やかではないらしい。
最初の頃はそうでもなかったんだが、記憶がなかなか戻らないせいか最近は精神的に来てるらしく不安げだし、体調もなんだか悪そうで、しかし医療所は嫌だという」

どうも俺は自分が色々丈夫に出来ているせいか、他人の不調に対して気づかないし、気づいても適切な対応が取れない…と言う錆兎に、なるほど、と、思う。

確かに錆兎は人当たりは悪くはないが、剣術と違ってそのあたりの対人能力は天才というよりは秀才型だ。
元々察する能力が高いわけではなく、経験を積んで学んでいっている。

鬼殺隊というのは鬼狩りをするための剣士の集まりなので、当然だが元々体の弱い奴などほぼ居ないと言ってもいい。
せいぜいお館様くらいだが、体調を崩されたお館様の対応をすることなど、柱と言えども全くない。
つまり、周りに怪我人は多くいても病人はほぼいないので、病人について学ぶ機会など隊士として生きている彼にはほぼないのだ。

その点宇髄は忍者時代には色々な場所で色々学んでいるだけに剣術以外にも知っていることも多く、何かしら対処を出来るかもしれないという事らしい。

「ふむ…」
と、宇髄は考え込む。

「まあ俺の想像にすぎねえんだが…」
と、いくつか可能性を手繰ってみて、宇髄は口にした。

「記憶を取り戻したいと思いきり思っていて、医療所に行くことで記憶が戻らねえっていう引導を渡されるのが怖いと思っている可能性が1つ。
あとは逆に今の生活が気に入っていて記憶を取り戻すのが怖いと思っている可能性が1つ。
最後の可能性としては…単純に医者が怖い。
そのくらいか…」

さて、どれだろうと思う。

錆兎は最初の理由だと思うと言う。
自分と同じく家族を鬼に殺されて師範について鬼狩りの修業をしたのだから、自らの手で一体でも多くの鬼を倒したいはず…と断言するのだが、宇髄は果たしてそうなのだろうか…とその意見に疑問を持った。

少なくとも錆兎の兄弟弟子で現継子という立場の義勇はしかし錆兎とは真逆の性格に思える。
錆兎のように仇を取りたいと思っているわけではなく、逆に鬼狩りになるしか生きる手段がなかったんじゃないか?

だが錆兎が全く悪気なく男なら家族の仇を取りたいものだと自分が思っているので、義勇もそうに違いないと思っているから、刀を握らず平和に暮らしたいと言えないでいる気がする。

もしそうなら、錆兎はむしろそうして欲しいと思っているのだという事を知れば、めでたしめでたしなんじゃないだろうか…

「とりあえず…話をしてみてえ。
お前を通して語られても、実際判断はできねえだろ?
相手を追い詰めたりはしねえし、嫌がるようならサクっと引くから、いいか?」

ダメ…と言われたらそれまでなのだが、そのあたりは信用してもらっているようだ。

「ああ、手間を取らせてすまないが、頼めるか?」
と、むしろ錆兎の方が頭を下げてきた。

こうして2人、食事を終えると揃って水柱邸に足をむける。
このあと、とんでもない展開になるとは想像もせずに…。



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