義勇さんが頭を打ちました_11

今では古参で柱の中心と言われている水柱、鱗滝錆兎は、宇髄の初めての後輩である。

宇髄自身、柱に任命されたのがちょうど新旧交代が始まった時期で、年を取ったり怪我を抱えつつも後続が育つまでと頑張っていた旧柱達がそろそろ引退をと思い始めていた頃だった。

実際、宇髄よりやや早く柱になった悲鳴嶼行冥が宇髄より4歳年上で、それより上になると皆、一回りどころか、下手をすれば二回り以上も年上で、本来だったらもう隠居しても全然おかしくない年齢である。

当時の水柱も錆兎達の師範である元水柱、鱗滝左近次の弟弟子で、そのあとを継いで数十年。
治らぬ古傷を抱えながらも水と炎は空席を作らぬようということで、かなり無理を重ねつつも頑張っていた。

兄弟子がいつか後継者を送り出してくれるはず…と信じて踏ん張っていたのだが、その弟子達が何故か最終選別を超えられない。

待って待って待って…ようやく最初に超えたのは女子で 優秀な剣士ではあったのだが、筋力の問題で普通の鬼は斬れたとしても、十二鬼月クラスになると辛くなる。
下弦まではそれでも苦戦して倒せたとしても、上弦相手になれば確実に無理だ。

そう判断して、彼はあちこち痛む身体に鞭打って、上弦とも渡り合えるような隊士に育つであろう子どもを待ち続けた。

そうしてついに現れたのが、今目の前にいる錆兎だ。

鱗滝左近次の優秀な元弟子の孫。
血筋による才能も申し分なく、本人も努力を惜しまず、本来ならば鬼に極力見つからないように逃げて命を繋ぐことを目的とした最終選別で、なんとその場にいた鬼のほとんど全てを倒したという神童だ。

水柱は狂喜した。
そして即、下弦が出たならその子どもを送り込んで欲しいとお館様に願い出た。

年は14になりたて、隊士歴半年。
そんな子どもを下弦とは言え、12鬼月にぶつけるなど正気の沙汰じゃないと事務方は反対したが、お館様が許可してくださり戦わせてみれば、見事下弦を討ち取り、史上最年少の柱となった。

…という鳴り物入りのお坊ちゃんだったので、さぞや天狗になっているだろうと思って会ってみれば、存外に人懐っこい。

宇髄よりも2歳下。
他は若くても6歳以上年上なのもあって、話しやすかったのだろう。
他にはとても礼儀正しく、しかしある程度の距離と緊張感をもって接しているようなのに、宇髄には何かにつけてまとわりついては色々頼ってくるので、あっという間に絆された。

これ、実の弟の1万倍は可愛いわ。
と、柱になった時期は大して違いはしないのだが、色々世話を焼いてやるようになる。

当時まだまだ子どものようだった体格も、それから4年も経つとしっかりとしてきて、今では188の大男だ。
そして剣技だけではなくそのしっかりとした性格から鬼殺隊の司令官と言われているが、宇髄といると相変わらず素直で可愛い弟である。

だから、もう子どもじゃないんだからと思いつつ、何か変わったことがあるとおせっかいを焼きたくなるので困ったものだ。

特に今回は、錆兎が特別に大切に思っている弟弟子のことなので、何かあったら大変だ。

実際…その継子に居心地の悪い思いをさせるくらいなら嫁など要らぬと、たった今目の前で宣言しているのだから、おかしなことが起きているなら放置すれば錆兎がとんでもない痛手を受けることになる。

それは避けてやりたい。


正直、同期でその継子とも同じ任務について交流のあった不死川あたりと違って宇髄はあまり相手のことは知らないので、まあ、こういう言い方はあれだが、錆兎が傷つかなければ継子はどうでも良いと言えばどうでもいい。

それでも聞いてみればどうやら本人、自覚があるかどうかはわからないが、単なる同門の弟子を通り越して、おそらく恋心に近いようなものを抱いているようなので、排除するよりは成就させてやりたい兄心だ。

この際、相手がどう思っていようと宇髄にとっては本当にどうでもいい。
同性だろうとなんだろうと、なんとか言いくるめて思いを遂げさせてやる…と、勢い込んで話をきいてみたわけなのだが、実際はそんな単純なことではなく、ずいぶんとややこしいことが起こっていたのである。



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