半泣きになりながら路地裏を走り回っていると、少し離れた所で男二人が話す声が聞こえた。
ああ、助かった…と、安堵に肩をなでおろして、道を尋ねようと声の方へと走り寄ってみると、見慣れた制服を着ている。
どうやら鬼殺隊の隊士達のようだ。
どうやら二人は友人同士のようで、他人にあまり聞かれたくない話をするために、人通りの少ないあたりに来たようだった。
「きよをさ、引き取ってくれれば礼はするから…」
と、片方がもう片方に両手を合わせていて、もう片方は
「俺は確かに特別な女子はいないが…お前達は長い仲だろう?」
と、眉を寄せている。
どうやら手を合わせている男の方には幼馴染の恋人がいて、他に好いた女が出来て別れたいのだが、なまじ長い仲なので言い出しにくいらしい。
なので、友人の男に恋人を口説いてもらって別れたい…と頼んでいるようだ。
そんな二人の男の話を聞いていて義勇はハッとした。
なんだかこの二人の話は、まるで自分と錆兎のようではないか…。
さきほどまではてっきり不死川が遊びに来いと言う意味で言っていたのかと思っていたが、もしかして、錆兎が真菰と暮らしたいが義勇のことを見捨てられないと思っていたところに、仲が良く面倒見の良い不死川が、じゃあ義勇のことは自分の家で面倒をみてやるとでも言ったのではないだろうか…
そんな風に思いつくと、それが正しい気がしてきた。
だって、真菰は可愛かった。
そして、彼女と一緒に居る時の錆兎は確かにたのしそうだったのだ。
…っ…ふっ…ふえ……
いまだに弱いと自覚のある涙腺が潤んだ。
…いやだ…いやだ、いやだ、いやだ…
錆兎に別れを告げられるのも、自分はもう面倒をみられないけど見捨てられないからと、他の人間に託されるのも絶対に嫌だ…。
そのくらいなら帰りたくない。
錆兎の口からお前はもう要らないと言われるくらいなら、帰らずに身を消してしまおうか…。
そう思ったものの、折悪しく雨が降ってきた。
本来出かけるつもりではなかったので、どうせ錆兎もいないからと寝巻と兼用の着物1枚着ているだけで、濡れてしまえばたいそう寒い。
男たちは雨を避けるように慌てて雨宿り先を探して走って行ったが、義勇はもうそんな気力もなくて、しゃくりをあげながらその場にしゃがみ込んだ。
ぽつり、ぽつりと降り始めた雨はすぐザーザー降りになってきて、寒さが体を芯から冷やす。
すっかり冷たくなった空気を吸い込めば、胸が痛んで咳が出た。
そうして寒さに震えて泣きながら咳き込んでいると、もう色々どうでもいいかという気分になってくる。
唯一の肉親で愛おしんで育ててくれた姉さんももう居ないし、これまでずっと気にかけて守って面倒をみてくれてきた錆兎にも見放されてしまった。
また一人ぼっちになるのなら、ここで凍死するのもいいかもしれない。
咳き込んで空気が上手く吸えないでいると、なんだかぼ~っとして思考力も落ちてきて、脳裏をよぎるのは自分の遺体を見つけて悲しんでくれる錆兎の姿。
自分で面倒をみられなくなっても面倒をみてくれる先を探してくれるくらいにはまだ情が残っているようだから、さすがに死体を見て厄介払いが出来たなどとは思わないだろう。
雨音以外何も聞こえない。
そんな世界にいると、自分が本当に一人ぼっちなんだと思う。
最期にこんな悲しく寂しい思いをするのなら、あの時、姉と一緒に鬼に喰われてしまえばよかった…と、思いさえする。
…姉さん…会いたい……
冷たい雨で冷えた頬に温かい涙がとめどもなく流れた。
もう色々がどうでもいい…そんな気分なのに、濡れた体は寒くて冷たくて、それが悲しくてまた涙が溢れ出る。
そんな風にどのくらい泣いていたのだろうか…。
遠く雨音に混じって剣戟と悲鳴が聞こえた気がした…
普通なら恐ろしく感じるそれももう気のせいかも…と放置するくらい色々がどうでもよくて、それよりも冷え切った体と咳、そして吸い込めない空気の方に気を取られていると、音もなくすぐ横に何かがくる。
この寒いのにずいぶんと薄着だな…と変な所を気にしながら顔をあげる義勇を、身体中に妙な刺青をしたその男はその奇妙ないでたちに似合わずどこか穏やかな様子で見降ろした。
ケホ、ケホ、と咳き込む義勇に少し眉をひそめ、そして手にした羽織をぱさりと落とす。
「守ってやると思っている相手に自分が居ない間に死なれるのは随分と堪えるものだ。
今の俺は腹がいっぱいでこれ以上何か食う気もせんしな。
保護者が捜す迷子の子どもを見て見ぬ振りをするのもどうにも寝覚めが悪い。
なんとかなりそうなあたりまで送ってやるから暴れるな」
と、そのまま義勇を軽々と小脇に抱えると、いきなり人ならざる者の能力とわかるほどの高さに跳躍した。
猗窩座、本当に親戚の👹いさん…^^;
返信削除なんて上手いことを(笑)
削除でも本当にただの気のいい人になってます、うちのAkazaさん😅