なんでも義勇より出来た錆兎が彼に敵わなかったことが二つある。
それが足の速さと気配の消し方だ。
おっとりしているように見えて、義勇は大変足が速い。
鍛え上げられた筋力で地を蹴ることで生み出される速さはかなりのものではあるのだが、鍛え上げた分そこそこあるウェイトもあって柱の中でも身軽な無一郎や伊黒、あとは速く移動する訓練をずっと積んできた宇随にはその速さも及ばない。
だが、他の柱や隊士と比べれば十分早い。
そんな柱の中でも決して遅くはない錆兎と比べても義勇は段違いに速かった。
細く身軽な体ですいすいと素早く、それこそ水の流れのように移動していく。
さらにその控えめな性格のせいか、気配が薄い。
いつのまにかふんわりと隣に寄り添っている。
その自然さが普段は心地いいのだが、さて、逃げているらしいものを見つけ出さねばとなると、その性質は非常に厄介だ。
そもそもこれまでは錆兎の方から捜さなくても義勇の方が錆兎から離れなかったので、あまりそれを意識したことがなかったのだが、実際に捜さないとならない事態が起こってみるとなかなか大変である。
不死川の話だと義勇が飛び出していったのは錆兎が帰ってくるほんの1,2分前らしいのだが、もう影も形もない。
さて、どこから捜したらいいのだろうか…。
驚いて逃げたのなら、おそらくは人がいないほうに逃げる気がする。
とすると…路地裏を覗くのが正しい…か?
──ぎゆう…ぎ~ゆう、もう大丈夫だぞ、出てこい
と、声をかけながら路地裏を覗いて回る錆兎。
自分でもまるで飼い猫でも捜しているような気分だが、実際、似たようなものだろう。
義勇は隊士になって半年後くらいに錆兎が柱になって水柱邸に引き取ってから、ほとんど水柱邸と近所の商店街の往復以外は一人で外に出たことがない。
だからびっくりして飛び出してしまったのなら、あるいは迷子になっている気がする。
路地裏でぷるぷる震えながら泣いている図を想像すると、めちゃくちゃ可愛いと思うのだが、そうも言ってはいられない。
確かに男ではあるのだが随分と愛らしい顔をしている義勇に人通りのない路地裏に居る不逞の輩が不埒なことを考えないという保証はないし、それ以上に見つからないまますでに数時間経っていて日が西に落ちかけているので、夜になれば鬼が出る可能性もある。
刀…ちゃんと持って行っていればいいのだが、自宅にいて不死川に驚いて逃げ出したという事は、当たり前に部屋着だろうし、刀など持ってでてはいないだろう。
そんな気の回る人間ではない。
常に用心を重ねて…などと行動するとしたら、それは義勇ではない。
義勇の偽物だ、うんうん。
…などと失礼なことを考えながらも、錆兎は必死に義勇の姿を追って路地裏をかけずりまわった。
そのうち折り悪く雨まで降ってきて、さらに焦る。
部屋着で飛び出したということは、当然羽織や傘なども持たずにいるのだろうから、風邪でも引いたら大変だ。
早く見つけてやらねば…と思っているうちに日が暮れて、さらに焦りがひどくなった。
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