「こんな時間にこんな場所からかよ…」
と、呆れかえりながらも、石を投げた人物はなんとなく分かる気がして、ギルベルトは警戒もせずに窓際に足を運び…そして、窓の外に木の枝の上にいる人物たちを目にして、赤い切れ長の目をまん丸くした。
と、窓を開けながらそう言うギルベルトに、
「ちゃお☆」
「ち~っす!」
と、それぞれ言って部屋に入り込む二人。
正直…香は予想通りだったが、そこにフェリシアーノまでついてきているとは思っても見なかった。
素直にそう口にすると、
「ん~、だってね、もうすぐ戦略大会じゃない?
うちのルークほど戦略からほど遠い寮長はいないし?
俺も自分の身は自分で守りたいなぁって」
と、フェリシアーノはにこやかに言う。
なるほど…と、ここに来た理由は理解したものの、ギルベルトも対応に関しては少し悩む。
おそらく武力という意味で言うと金銀あわせて6寮中ダントツ最下位の銀竜寮のプリンセスであるフェリシアーノとしては、どうあっても他寮と組まなければならない。
しかし戦力にならない銀竜と組もうなどという寮は早々ないだろう。
ギルベルトにしても個人としては助けてやりたいとは思うが、それが自分のみではなく、寮や自寮のプリンセスを巻き込むとなれば話は別だ。
状況を察して考え込むギルベルトの思考は当然フェリシアーノも予測してきているので、彼はニコリと可愛らしい笑顔で近づいてくる。
「あのね、俺達3寮組むことがギルベルト兄ちゃんの…ううん、アーサーの銀狼寮がトップになるのに一番確実な道だと思うよ?」
それは悪魔の囁きだとギルベルトは思う。
実際に手足を使って戦う事、そして、それの延長線上の戦闘面での戦略ではギルベルトは自分が学園一だと自負しているのだが、あいにく戦闘を離れた心理戦になるとその限りではない。
逆に生まれた時からお家騒動の中で自らに敵の目が向かないように巧みに立ち回ってきたフェリシアーノはその道の猛者だ。
敵う気がしない。
聞いたら最後だ…と思うのと同時に、それでもより確実な道を模索するためにはより多くの情報を集めておかねばならない…と思う自分もいる。
そのまま話そうとするフェリシアーノを一旦押しとどめて、2人にコーヒーを淹れるわずかな時間に必死に検討した結果、結局天秤は後者に傾いて、ギルベルトは香とフェリにそれぞれコーヒーのマグカップを渡しつつ、
「で?その根拠と条件は?」
と、自分もコーヒーをすすりながら先を促した。
「あのね、金狼はもうプリンセス戦は一切捨ててるし、今回の戦略大会の一番の課題は戦いのどさくさでアルを暗殺されないことなのね。
でもって、たぶん金狼寮には何人か暗殺者や内通者が紛れ込んでるから、出来ればどさくさに紛れられる状況の時は寮生からアルを離したいんだ。
だから、戦略大会の間、アルを銀狼寮の陣地で守って欲しい。
もちろん、護衛に香も一緒にってことで」
「…それ…銀狼側のメリットは?」
と、当然だが聞くギルベルトに、香が手を挙げて言う。
「俺が銀のプリンセスも一緒に守る的な?
あと…うちの寮生全部ギルが他寮攻める時に使ってくれておっけぃ。
1寮分の兵隊全部提供する…ってのは超メリットじゃね?
もちろんギルがそれでゲットした他寮のブレスは銀で持ってってくれておっけい。
銀からアタックのために割く兵を減らせるから、銀のプリンセスの護衛も厚くなるし、俺が絶対にギルを裏切れないリーズンはギルも知ってる感じだし?
表向きはもう、うちのゴリプリじゃ戦うだけ無駄だし、ゴリプリが銀のプリンセスLoveで守りたいって言うから好きにさせるアンドおこぼれに自寮のブレスだけ守らせてもらうって感じでおっけいかなと。
ギルが超気合入れて他3寮のブレス総取りすれば、それでうちは3位決定。
ってことでok?」
「あ~…確かに理は通ってるし、悪い条件じゃないな…」
と、ギルベルトも納得する。
確かに銀狼寮には無関係なだけにアルに関する暗殺者も内通者もいない。
ようは香からしたら、金狼寮に大勢忍び込んでいる暗殺者達に気づいていると知らせずにそれらから引き離しておきたいというのが、一番なのだろう。
それには誰が、というのがつかみきれない以上、全員を外に攻めに行くギルベルトにつけてしまえばいい。
そのうえでアルが滞在する銀寮陣地には、香というとてつもない力のある戦力が護衛として残るので、銀の護衛のパワーアップになる。
なるほど、winwinな提案だ。
ということで、金狼寮に関しては納得したギルベルトは、次に
「で?フェリちゃんとこは?」
と、フェリシアーノを振り返った。
それにフェリシアーノはにっこり笑う。
本当に邪気がない可愛らしい笑顔を浮かべた。
その一見全く邪気がなさそうなところが恐ろしい。
「銀竜寮はね…目立たないところがミソなんだよ?」
と、まず軽いジャブ。
「実は金銀虎寮から同盟のお誘いをうけてるんだ、うち」
「へ???」
あまりに意外な言葉にギルベルトは目を丸くした。
戦力というならこれほどない寮も珍しいんじゃないだろうか…。
それが何故?
…と、一見失礼で、しかし誰もが持つその考えを、当然フェリシアーノも自覚している。
「一番無力で無害…それがミソなんだよ」
と、そんな風にみられていることも自覚済みとばかりにフェリシアーノは微笑んだ。
「今の状況としてはね、金銀虎は表向きは同盟を組んでる。
互いに不可侵。
でも双方1位を狙ってるからね。
互いのテリトリーに足を踏み入れられれば警戒される。
でも弱くて守って欲しいだけな銀竜寮の人間なら出し抜かれる心配はないからね。
双方で情報を交換したり足並みをそろえる作戦を伝える、テリトリーに入っても何もできない無害な連絡役として欲しいってこと。
で、最終的に、出来れば互いを出し抜く手伝いをさせたい…ってとこかな?
あとは、たぶん…両方の寮が手にしたブレスレットが同数だったら、うちの寮を叩いてブレスを強奪して相手に差をつければ良いと思ってると思うよ?
もちろんそうは言わないだろうけどねっ」
と、笑顔は可愛いが語る言葉は可愛くはない。
「…っていうことで、うちは3年生寮と組むのは論外。
とすると、同盟相手はギルベルト兄ちゃん達しかいないってこと。
ギルベルト兄ちゃん達のメリットは…兄ちゃん達を絶対に裏切れない同盟者が出来るってこと?
3年生組が組むのは決定だから、あとは金銀の2年生が3年生組か1年生組に分かれることになるんだけど…金竜は絶対に裏切るよ?
彼らだって優勝したいと思ってるからね。
もちろん…2年生を引き入れずに1年生寮2寮だけで戦うって選択肢もなくはない。
だけど、うちも香のとこと一緒で、今回の事だけじゃなくて他のつながりがあるから絶対にギルベルト兄ちゃんを裏切れないと思えば、いないより居た方がいいでしょう?」
これ…大したことはできないけど、裏切らないし頭数だけでも多い方が良いだろうと言われてるのか…と、ギルベルトは脳内で整理する。
だが…確かに寮としては大したことができない弱い寮だとしても、実はプリンセスは腕力はなくとも策略においては海千山千の最強のプリンセスだ。
「わかった。銀竜への条件はフェリちゃんもアルと同様銀狼寮の陣地にこもること。
で…兵隊は俺の預り。
寮長のルークは俺と敵の攻城戦。
ってのが表の条件で、裏の条件。
陣地の設計は俺がするけど、フェリちゃんも本気で身を守るとしたら…ってことで、意見聞かせてくれ。
香も含めて全員の認識として、守る順番はうちの姫さん、フェリちゃん、アルな?
それで万が一、2寮のプリンセスや香、ルークがブレス取られることになったとしても、俺が他寮から分捕って最低保証はする。
…ってことでどうだ?」
「十分!ってか、うちはマジ余ったらで。
ゴリプリの命の防衛がマストだから」
「うちも了解だよ。さすがギルベルト兄ちゃん。良心的だね」
と、香とフェリシアーノがそれぞれ了承する。
こうして同盟と大まかな役割が決定したところで、ギルベルトは内線でバッシュを呼び出して、4人で細部の見当に移った。
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