清く正しいネット恋愛のすすめ_213_拉致計画当日

午後…錆兎あたりから何か言ってこられるかと思っていたのだが、特に何もなく放課後になる。
どうやら宇髄が上手くいってくれたのだろう。
不死川はこのなんのかんので面倒見の良い小等部時代からの幼馴染に感謝した。

「じゃ、俺は宇髄と行くからあとで家でな」
と、当たり前に手を振る錆兎。

そして不死川にまで
「悪いが義勇を家まで頼むな?」
と笑顔を向けてきた。

「…お、おう……」
と返答をしながらも、不死川は錆兎の顔をまともに見ることができない。

彼にとっても義勇の幸せは自分自身の幸せ、義勇の不幸は彼自身の不幸になるのだろうが、それでも騙すことにはなるのである。

罪悪感で動悸がひどく、吐き気すら覚えた。

ああ、そうだ。
もし義勇を錆兎から引き離せたら、自分ではなく村田か茂部太郎あたりに一緒にいてもらうのはどうだろう。
一旦はひどいことをした自分の謝罪を受け入れて色々面倒をみてくれた恩人でもある友人を裏切った時点で、自分が義勇と付き合うことなど一生許されない。

ある意味これがそういう意味での自分の義勇との完全な離別だ。


「不死川、早く行こう。
夕飯の時間までに帰れなくなったら困るし…」
と、とててっと錆兎に駈け寄って思いきりハグをしてからクルリと反転、不死川に駈け寄ってくる義勇。

少し前なら彼女の方から自分に寄ってくるなんて考えられなかったことだ。
これも錆兎と宇髄のおかげなのだが、その二人を自分は今日騙して、その一人の最愛の彼女をその手から奪おうとしていると思うと、やはり心が痛んで仕方がない。

それでも義勇の幸せを考えれば、いまさら引き返すことなどできないのだ。


「おう、行くかァ」
と言って立ち上がる不死川とその斜め後ろを歩く義勇を笑顔で見送る友人二人。

直接的に裏切られる錆兎はもちろんのこと、その友人を結果的に裏切る行為に加担させられた宇髄も、二度と自分にそんな笑みを向けてはくれないだろう。

そう思うと泣きそうになったが、不死川はもう後ろを振り返ることはしなかった。



学校から最寄り駅までは産屋敷学園の学生も多いので人目につきすぎる。
だから拉致するのは買い物が終わって鱗滝邸の最寄り駅から鱗滝邸に行くまでの帰り道。

同じ家に帰る錆兎と宇髄の2人とかち合わないように、童磨の知人が2人を見張っていてくれるらしい。
なので、2人が通らない時間を見越してその道を歩いて戻る途中で、童磨と車で連れ去る予定だ。


「…不死川…大丈夫?顔色悪いよ?」
と、買い物に出た街中で義勇が顔を覗き込んでくる。

基本的に錆兎以外の人間のことを一切気にしない彼女がそういうくらいなのだから、不死川は随分とひどい顔色をしていたのだろう。

幸いにして宇髄も錆兎もまだ学校らしく、さらに言うなら、買い物は飽くまで口実に過ぎなかったので、まあいいか…と思った。

「あ~…悪い。ちょっと買い物、後日で。
送るだけ送ってくわ」
と、言うと、義勇は
「ううん。1人で帰れるからいいよ」
と言うが、義勇が良くてもこちらは良くない。

「いや…錆兎との約束だからなァ。どうせ帰り道だし送ってくだけ送ってくわ」
と、半ば強引に一緒に電車に乗りこんだ。


そして鱗滝邸の最寄り駅。
駅前の商店街を抜けると、閑静な住宅街で、大きな家が多いので圧倒的に人通りは一気に少なくなる。

そろそろ晩秋を過ぎて初冬に差し掛かろうとする時期で、5時前にもなると道もうす暗い。
そんな中で後ろから近づいてくるのは車のライトだ。
ああ…いよいよか…と不死川に緊張が走る。

高級車がエンジン音もなくゆっくりとスピードを落として不死川達に並走し始めた。

──やあ、不死川君。
と開いた窓からかけられた声に、不死川は握り締めた手にどっと汗をかいた。



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