「よりによってもうこの時期かよ…」
秋…シャマシューク学園では恐ろしい行事がある。
これは本来は広大な敷地の中に各寮が陣を敷き、その日にそれぞれの寮に渡される、対になった寮長と副寮長のブレスレットを両方取られればその寮は失格。
もちろん当日の寮長と副寮長はそれを身につけていることがルールである。
武器は体育祭の騎馬戦で使用したような先の尖っていないものだが、それでも本気でやりあえば重傷者くらいは出る。
ゆえに…それを避けるように退学者や内通者が出たりする季節でもあった。
このイベントだけは完全に寮対抗。
1位から3位まで加点式で、金銀で分かれての点はない。
単純に自寮の2つのブレスレットをいくつ守れたか、そして他寮のブレスレットをいくつ奪取できたかで加点され、合計点の多い寮が勝ちと言う単純明快なルールだ。
そう、ルール自体は単純ではあるが、自寮のブレスレットを守れば良いだけではなく、優勝するには積極的に他寮のブレスレットを取りに行かねばならないので、戦略大会というだけあって作戦は複雑化する。
寮長、副寮長共に陣地で守りを固めて、他の寮生が他寮に特攻するか、副寮長は陣地で守って寮長が寮生を率いて特攻か…あるいは…プリンセスを守りながらも一緒に連れて行って特攻か…。
寮生の人数は最初に配属された人数で変わらないので、ここでどういう作戦を取るかで結果が変わる。
寮長と副寮長が陣地にとどまっていれば、当然攻撃に割ける寮生は少なくなる。
それでは他寮のブレスレットの奪取は難しい。
だが、特攻をかける寮が寮長が寮生を率いて特攻し、副寮長とわずかな護衛だけしか残っていない状況で攻め込まれれば、奪取される可能性も多々あるだろう。
逆に…しっかり守りを固められている寮に寮生だけで特攻して返り討ちに遭い、それで戦える兵が減れば、寮長が陣地に居ても多勢に無勢になりかねない。
また、それでは副寮長も併せて特攻となれば、今度はプリンセスを拉致されれば、兵が崩れるし、なまじ寮のブレスレットを二つ持ち歩いている状況なので、一気に全て持っていかれる。
つまり、自寮だけではなく、他の寮がどういう作戦を取るのかというのも、このイベントの攻略には重要になってくるのだ。
さらに言うなら、ここで他寮と同盟を結ぶという策もある。
明らかに力の差がある場合などは、複数の寮が協力して、1位2位…あるいは3寮なら3位を狙うというのも戦略として認められているし、協力関係のフリをして最後に裏切るなどというのもありだ。
なので、夏休みが終わったあたりから、もう外交合戦は始まるのである。
「さて…今年はどうすっかなぁ…」
と、銀狼寮の寮長であるギルベルトはガシガシと綺麗な銀髪を乱暴に搔きながら、考え込んでいた。
おそらく銀狼寮は一番敵のターゲットになりやすい。
かなりの確率で2寮以上が組んでこの寮を狙ってくる。
なにしろ正直に言って、今年の銀狼寮は全寮の中でも群を抜いて強い。
ギルベルトが寮長の中で最強なのはもちろんのこと、兄弟なのでギルベルトと同じく騎士の家で鍛えられて育ったルッツがいる。
さらに…前回の諸々で表向きはバイルシュミットが雇ったという形にするため、王が資金は出しているのだが銀狼寮の寮生になっているバッシュは、世界一の警備会社のツヴィンクリ社の会長の孫で同社のS級傭兵以上の実力があるというのだ。
これだけ揃ってしまえば、もう正攻法では敵わないと思わないのがおかしい。
そして1対1となればどの寮でも絶対に勝てないとなれば、徒党を組んでという形になるのは自明の理だろう。
自分だけのことならば、多少のハンデは戦いを楽しくするスパイスのようなものだが、自寮のプリンセスを危険に晒したくはない。
大切な大切な…己の命より大切なプリンセスだ。
危険に晒すどころか、怖い思いをさせるのすらも避けたいのである。
そうなると、本当に慎重にことを運ばねばならない。
あるいは力で粉砕できるかもしれないが、ギリギリの戦いをするのはNGだ。
そんなことを思いながら、ここはバッシュでも呼んで作戦会議か…と思っていると、寝室の窓にコツン!と小さな石が当たった音がした。
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