寮生はプリンセスがお好き9章_3_葛藤

──……ギルのそばがいい…

フェリシアーノと香と3人で細々したことを決めて、バッシュにも意見を聞いて、最終的に決定してからアーサーに今回のことを伝えると、ぎゅっとギルベルトの袖口を掴んでそう言って俯かれた。

大きなグリーンアイが溢れ出たもので潤む。
そうしてポロポロと目から透明の雫が零れ落ちては白い頬を伝ったところで、ギルベルトは片手を額に当ててため息をついた。

無理だ…無理。
これをスルー出来るほどのメンタルは俺様にはねえ。

正直…ギルベルトは泣かれると弱い。
正確には自身が可愛いと認識した相手には?

しかもアーサーは育った環境もあって歯がゆいほど我儘も言わず、諦めの良い少年なのでなおさらだ。

──…ウソ……ごめん、迷惑だよな…
なんて、こちらが何も言う前に前言撤回してしまうほどには……

ああ、無理だ。本当に無理だ。

「あのな、勝ちに行くなら、正直、かなり走ることになる。
作戦中は構ってもやれなければ手を貸してやることもできねえ。
いや…勝負捨てるって手もあるけどな?
俺はこの3年間の寮長生活をお姫さんのために捧げるって決めてるから、それでもいいんだが…」

そうだ。
寮長と言えども一寮生である以上は、プリンセスに尽くすために存在しているのだから、プリンセスが否と言うなら、戦略大会の勝利なんて二の次であるべきだ。

ギルベルトは即座にそう思いなおして、自分が離れない前提でアーサーの身の安全を守る方向で色々を考え直し始める。

香あたりに知られたら呆れられ、バッシュあたりに聞かれたら叱られそうだが仕方ない。
自分はプリンセスのための一振りの剣なのだから…。

「お姫さんにとって一番いいようにしてやる。
だから頼む、泣かないでくれ」
と、涙があふれる目尻に軽く唇を寄せる。

すると、ギルベルトの大切なプリンセスは泣きながら我儘を言ってごめんと首を横に振るので、ギルベルトはその小さな体をぎゅっと抱きしめて腕の中に閉じ込めると、

「我儘じゃねえよ。
お姫さんは普段あまりに要望を口にしてくれねえからな。
お姫さんがしたいことを叶えてやれるのは嬉しいし楽しいぜ?
俺様、戦略考えんのも大好きだしなっ。
お姫さんが俺様のそばを離れないで良い方向で、極力トップを狙える方法を考えるからな?」
と、可愛いつむじにちゅっちゅっと何度もくちづけた。


さて…プリンセスに約束をしてしまったのだから、無理でもなんでもこなすしかない。
金狼寮の寮生は陣地に残さずアルから引き離すためにも敵陣地を攻めるのに使うという香との契約がある以上、自分が陣地に残るという選択肢はない。

となると、アーサーの方を連れ歩くことになるのだが…ブレスレットなど正直どうでもいいが、万が一にでもアーサーに敵の攻撃手が向かって怪我でもするような事態に陥らせるわけにはいかない。

そうなると、どうするか……
何重にも色々な手を打っておかねば…

今使える諸々を思い浮かべながら、ギルベルトは考える。
そうして思いついた手を実行するために、バッシュを呼んで打診。

「ふむ…そういうことなら吾輩よりも妹の方が詳しいな。
今度の休日に外で会って話をしてくると良いのである」
と、妹に近づく者は断固として射殺するマンな兄にそう言ってもらえるのは、もしかしてすごく信頼をされているのだろうか…などと思いながらも、その申し出はありがたく受け入れて、ギルベルトは週末にバッシュの妹のアデルに会いに行くことにした。


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