寮生はプリンセスがお好き9章_4_準備

作戦が決まってからは実に忙しかった。
まずは陣地になる砦の設計から入らねばならない。

砦となる建物自体は全寮に対して同じ物が与えられているが、内部を変えるのは自由なので、そこをいかに工夫するかが勝敗に関わってくるのだ。

もちろん凝ったものにしようと思えば、それなりに金も時間もかかる。
前者はこの学園に通う生徒の大多数は富裕層の子息なので全く問題はないとしても、後者は金を積んでも短縮するのには限界がある。

なので極力早く造りを決めて設計し、業者に依頼しなければならない。


特にギルベルト達、銀狼寮の今年の砦は金狼、銀竜の2人の姫君達も滞在させることになるので、例年と形式がガラっと変わる。

二人のプリンセスが銀狼寮の陣地に居るのは飽くまで2寮それぞれにある事情のためなので、銀狼寮のプリンセスの安全が第一なのは金狼、銀竜ともに了承済みだ。
だから、普通に一般護衛で固めた入口、その後、ルートと香、そして銀狼寮の中でも精鋭が控えるプリンセスの部屋。
その奥に銀狼のプリンセスように隠し部屋を用意する。

ルートと香が銀狼寮の精鋭を率いればそうそうに敵に制圧されるということはないと思うが、念には念をだ。

だが、実はこれも敵をかく乱するためのアイテムに過ぎない。
実際どう配置してどう動くかは当日のお楽しみだ。

まあそれでも砦の設計はある程度隠しようもなく、金狼と銀竜とは情報を共有しているのだが、今回はギルベルトはそれと同時にバッシュを通してアデルに依頼したものがある。

プリンセスと…そしてお付きの衣装だ。

戦略大会と言えどもそこは姫君を擁する寮同士の戦いである。
姫君の衣装も大切だ。

ギルベルトはそのあたりは詳しいとは言えないので、大まかに着せたい衣装のイメージだけを伝えて、細かいデザインはアデルにお任せである。

もちろん…外見だけではなく、機動性や着やすさ…そして安全性が抜群であることが第一条件だ。
こういう時に様々な場所…そう、ノーブルな場所でもそれとわからないように武装して護衛することに長じた警備や傭兵業を請け負う世界的な大会社が味方に付いているのは非常にありがたい。

プリンセスとおつき5名分の衣装は外見は違えど中身は一緒。
ツヴィンクリ社お墨付きの防御に優れた逸品だ

「お友達のアーサーさんが身につけられるものですからね。
外見の愛らしさ以上に着心地の良さにこだわってみました」
と言うアデルの笑顔がまぶしい。

…というわけで、必要な物は順調に揃い、あとは当日の作戦行動をいかに成功させるかだけだ。


こうして届けられた衣装の最終チェック。
真っ白なウェディングドレス。
それについているマリアヴェールは顔をすっぽり覆う長さだ。

おつきのメイド用の衣装は色違いで同じデザインのドレスで、これにもヴェールがついている。
一応毒などの使用は禁じられているが、侵攻を妨害するために煙や砂くらいは使われる可能性があるし、ギルベルト達は全員ゴーグルとマスクを用意しているが花嫁やメイドにゴーグルは外見上美しくない。
だからそれらを隠すためにもヴェールというわけだ。

花嫁部隊に関しては、自寮と共に率いることになった金狼寮部隊からもアーサーと同じくらいの背格好の生徒をピックアップしたのだが、全員揃うとこれがなかなかに愛らしい。

これを攻撃できるとしたらどうかしているな…と、ギルベルトは思う。
というか、自分ならこんな愛らしい花嫁部隊に攻めてこられたら、攻撃を仕掛けられる自信がない。


──可愛いは正義です!

と、前寮長の本田がしょっちゅう言っていた時は、何言ってんだ、このジジイは…と思ったものだが、そう思っていた過去の自分を殴り飛ばして本田に土下座させたいくらいには真っ白な花嫁とそれを囲むメイド軍団は可愛らしかった。
これを連れ歩くと思うと少し楽しい気分になってくる。

こうして準備はほぼ終了。
バッシュと綿密に打ち合わせをしつつ、当日を待つことになった。


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