時をすこしばかり遡ったある日…
──ウ～サちゃん、今回の件ね、ちょっと高校生には荷が重いかもしんない
ユキにそう言われて錆兎は表情を硬くした。
そしてそれさえも今の錆兎くらいの年齢の頃から事件やらなんやらに巻き込まれてきたユキや彼らのボスであるコウにとっては驚くべきことに値していなかったようなのである。
そんな彼らが学生には荷が重いと言い切るなんて、どのくらいのものなのだろうか…
さすがに警戒マックスな錆兎に、いつもは何でも余裕でにやにやといたずらっぽい笑みを浮かべているユキが、真顔で大きくため息をついた。
「でも…別件でも依頼が来てる案件だから、俺らは思いきり介入するから安心していいよ」
と言ったあと、しかしユキは彼らしくそこで
「まあ…何とか出来るとは限らんけどっ」
と、笑って言う。
非常に難しい何かが関わっているらしい。
それでもコウ達が関わってくれるなら何とかなるだろう。
錆兎がヘルプ依頼したコウは、このIQの高さを買われて幼い頃に前三葉商事の社長にヘッドハントされた天才ユキを始めとする優秀な部下を抱える社長で、錆兎が幼い頃から知っていて祖父の次に頼りにしている兄弟子だ。
それは単なる錆兎の買いかぶりではなく、コウは実際、彼が高校生時代に殺人事件に巻き込まれたのを始めとして、何故かまきこまれた難事件を華麗に解決。
そのおかげで彼が通っていた日本一賢い高校と言われる海陽学園の生徒会OBの警察の偉いさんとも懇意にしているというすごい人物なのである。
そんなことを思いつつ聞いていたら、なんと今回頼んだ転入生についての諸々は、その警察の偉いさんからの依頼で協力していた某宗教団体絡みらしい。
「ウサちゃんさぁ、万世極楽教って知ってる？」
と言われて納得した。
それは昨今、若者を中心に人気のある新興宗教である。
はまった若者が親の資産を持って教団に飛び込んで、そのまま帰ってこなくなるということが続出していて、親が連れ戻しに行っても会わせてもらえず。資産の返還も当然されず、勝手に入信した中には未成年も混じっていることから、社会問題になっている怪しい宗教だ。
なるほど。
警察も手をこまねいているくらいなのだから、そりゃあ厄介だ。
ユキいわく、早川美沙はその団体の幹部の娘らしい。
そして不死川に近づいたのも意図的で、彼に接触を持つためにわざわざ不死川の弟と同い年の養子をとって同じ保育園にいれたという念の入れようだ。
本当に厄介な人間に目をつけられたものだとため息しか出ないが、その原因はと言うと心当たりがありすぎて、さらにうんざりする。
「その宗教団体にどうやってか武藤まりが駆け込んだってことですか？」
「ご名答」
と、互いに苦笑する錆兎とユキ。
人間どうしようもないことにぶち当たると、最終的に笑うしかないらしい。
錆兎は自分についてはたいていのことは自分でできるつもりだったが、これは大きすぎる。
警察ですら手を焼いている巨悪にどう立ち向かえばいいのか…そんな思いで考え込んでいると、
「え～っとね？
さっき俺言ったよね？
これは高校生だけでなんとかできる輩じゃないから俺達が介入するからって。
つまり、だ、俺が言いたいのはウサちゃん達が大変になるよ？じゃなくて、ウサちゃん達だけでなんとかしようとしちゃだめだよ？ってことだからね？」
と、腹黒にして毒舌がモットーのユキにしては珍しく優しい声音でそう言われた。
え？あ…そうなのか…と、錆兎はまるで脳内から霧が晴れたというか、目から鱗というか、なんだかすっきりとした気分になって安堵した。
そんな錆兎の胸の内を読み取ったのか、ユキは
「ウサちゃんさ、ほんと～～～にうちの社長様の弟弟子だよね。
なあんであれで自分でなんとかする方法を考え込むんだか。
いい？人間て自分だけでできることなんてたかだか知れてるからね？
出来る人間になりたきゃ上手に他人を使う事を覚えなさいよ？」
と、これも自他共に社長様以外に興味がないと言うユキらしからぬ親身な忠告をもらって、錆兎は驚く。
まあ、ユキいわく
「本当に昔の社長様に似すぎてて放っておけないんだわ」
…ということらしいが…。
ということで、そこから先は三葉商事の社長様と側近たち、通称ヘキサゴンが中心になって計画が実行されることになった。
誤変換報告です。親が連れ戻しに行っても併せてもらえず→会わせてもらえず ご確認ください。
返信削除そして大変失礼なことにヘキサゴンが活躍と読んで、えっ❣アオイちゃん役に立ったの⁈と思ってしまいました(´ﾟдﾟ｀)いや、役に立つ事も有るのは分かってるんだけど^^;
誤字報告ありがとうございます😄
削除アオイちゃんはほら…実用的なことに長けた天才に囲まれた和ませ係なので😅