清く正しいネット恋愛のすすめ_215_捕り物直後

──義勇…無事で良かった…

警察を含む十数人の集団の中でまっすぐ義勇に駈け寄る錆兎はそう言って最愛の恋人を抱きしめる。
それをにやにやと横目にしつつ、宇髄は状況を確認しに動画を撮っていたカイの方へ。


ユキは
「なんか昔どっかで見た光景な気がすんのは気のせい?」
と、どこかからかうような調子でコウを肘でつついて言って、それにコウが
「…もし十数年前の新宿の出来事のこと言ってるなら、あの時の俺よりは今の錆兎の方が数倍冷静だと思うぞ」
と、からかわれているのを怒るでもなく、スルーをするでもなく、ただ淡々と自分から見た事実を述べた。

まあ…自分の恋人が危険な目に遭うかも…と思いつつ、必死に現場に駆け付ける時の不安だったり焦ったりする気持ちはよくわかる。

自分にも経験があるしな…と当時の青さを思ってため息をつくと、なんとも耳聡いことにそれを聞き取ったらしい錆兎は、義勇の手をしっかりと掴んだまま、慌ててコウの方へと駆け寄ってきた。

「悪い、別にコウさんを信じてなかったわけじゃなくて…コウさん達がしっかり義勇を守ってくれるのはわかってたんだが…」
と、なんだか『無事で良かった』という錆兎自身の言葉が、今回、義勇の事は責任をもって守るからということで錆兎と敢えて離して囮にしたことに対する失意だと思われたと思ったらしい。

心底困ったようにそう言う弟弟子に

「いや、そうじゃなくて…。
俺もちょうど今のお前みたいに姫が危険に晒されそうになった時にユキ達に助けてもらって後から駆けつけて、今のお前どころじゃない取り乱し方をしたのをユキに指摘されたから。
ああ、そんな時代もあったよなと」
と、苦笑するコウ。

「コウさんが…??」

錆兎にとって幼い頃からどう逆立ちしても敵わない優れモノの先駆者として存在していた兄弟子の言葉に目を丸くすると、

「そそ。新宿のど真ん中で動揺のあまり怒鳴り散らして通行人の好奇の視線を一身に浴びてたからね、大学生時代の社長様」
と、言い出しっぺのユキがニシシっと笑いながら言った。

「俺が知ってるコウさんからは考えられないな…」
と、それでもなお言う錆兎に

「う~ん…なんだか理想化されてるけど…俺は今のお前の年齢の頃は、彼女いない歴=年齢どころか、友達居ない歴=年齢の、アオイにさえ”絶望的に空気の読めない男”認定されていたコミュ症だったからな?
それに比べたらお前なんて齢16歳にして親友も彼女もいて、学校外で一緒に学ぶコミュニティなんて作れるくらいに友人もいて、俺の100倍すごい奴だと思ってるぞ?」
と、コウに真顔で言い切られて、錆兎は顔を赤くして
「…いや…すごくは…ない」
と片手で顔を覆った。

他には言われ慣れているし、言われるのが得意でないなりに、「ありがとう!」とにこやかに返せる錆兎ではあるが、自分が目指している尊敬している先輩に言われるとさすがに照れるらしい。

それを横で見ていた義勇は、はわわっと驚いた顔をしてその場でジタバタする。

…照れてる錆兎もカッコいい!
…ということらしい。

そこで
「コウさんっ!」
と、彼女には珍しくグイっといきなりコウの腕を掴む義勇に、ん?と少し意外そうに眼を見張るコウ。

「あのねっ」
「ああ?」
「たまに遊びに来て錆兎を褒めてっ!」
「はあ???」
と、わけがわからずポカンとするコウ。

「義勇、いきなり何を言ってるんだ?」
と、焦る錆兎。

その横で爆笑するユキ。

「え?え?ウサちゃんの彼女も電波??
姫様と一緒っ?!
まじ、この手の優れ者の男は電波が好きなのっ?!」

ヒーヒーお腹を抱えるユキを
「姫は電波じゃないっ!
すこしばかり”やんごとない”だけだっ!」
と、どつくコウ。

そして
「電波?
私は義勇で電波じゃないです」
と、頓珍漢な事を言ってさらにユキを爆笑させる義勇。

反応に困る錆兎を前に、

「ああ、俺もたまには錆兎に会ったり鱗滝先生に稽古をつけてもらいたいんだが、なにぶんなかなか時間が取れなくて。
でも会えて嬉しいのは確かだし、良ければ君たちのほうから訪ねて来てくれると嬉しいな。
なんならレジェロの企画室とか、アオイに案内させるし」
と、とりあえず意味がわからないなりに大人な対応をしようとするコウに、しかしスルーさせる気はないらしい義勇はきっぱり

「照れる錆兎ってあまり見られないから…カッコいいなって思って」
と、端的に自分の主張を違う言葉で繰り返した。

「なるほど、そっちか」
と、日々少しばかり言葉を理解されにくい電波な愛妻と接しているコウはそれでわかったらしい。

それなら…と、少し身をかがめて義勇に視線を合わせると、ニコリと微笑んで言う。

「俺よりも君が錆兎に面と向かって彼のどこがどのように好きなのかを語ってやるといい。
それで君の見たい錆兎を見られることは俺が保証する」

「コウさんっ!!」
と、その言葉にすでに錆兎はまた赤くなって抗議の声をあげるが、

「恥ずかしいが幸せな恥ずかしさだろう?
俺もそれをやられると羞恥にのたうちまわるが、嫌ではない」
と、コウは、ハッハッと笑った。

「あ~、もう、バカップルののろけは良いから、とりあえずご近所さんが集まってこないうちに撤収ね。
社長様はあれでしょ?
今回も国家権力使ってくれた高校のOBの加藤警視正とこのあと会食と言う名の話し合いでしょ?
キツネっこ達に関しては俺が引き継いでおくから、ちゃっちゃと行っちゃいなさい」
と、部下の中でも社長秘書の役を担うカイの方へとユキがコウを促す。

そして代わりにカイの所から宇髄がこちらへ。

「画像送ってもらっといた。
で、こっちもこっちでこれから鱗滝邸で情報の共有と話し合いってことでいいな?」
と、終始呆然自失といった風に立ちすくむ不死川の腕を取って、錆兎と義勇、そしてユキとランスの方へと合流する。


──…さびと…俺……
と、そこでようやく青ざめながら口を開く不死川に

「大丈夫。わかってる。
実弥は実弥なりに義勇のことを考えてくれてたんだよな?
大丈夫だ。何か言ってくる奴が居ても俺がいってやるから」
と、その肩をポンと叩いて告げる錆兎に、それ以上の言葉を失った不死川はポロリと一筋の涙を零した。

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