白姫
──荷物はまとめておいたから、課長補佐が戻ってこないうちに… 泊めるのを了承した直後、立ち上がったアーサーに手を引っ張られてその言葉を投げかけられた時点で、茂部太郎は理由を聞かずに了承した自分の軽挙を少し後悔し始めた。
「茂部君…」 茂部太郎が近づいてきたことにすら気づかなかったのだろう。 目の前の天使のように綺麗な同僚は、びっくりしたように顔をあげた。
──もしかして…カークラド君? それはバカンス直前の日にあった打ち合わせの帰り道のことだった。 隣には上司のエリザ。 彼を先に見つけたのは当然彼女だった。
全く情けない事に、また胃痛で病院に担ぎ込まれた。 しかも救急外来。 普段なら課長補佐はオンラインゲームで来ないアリアを待っている時間帯だ。
──ジジイ、昨日の会話、できるだけ一言一句漏らさない勢いで話せ。 翌日は週末で休みだった。 だが、いつものように穏やかで優しい日ではない。 前日、体調不良で早退したアーサーは夜にまた胃痙攣を起こして病院に担ぎ込まれることになったのだ。 まるで著しく...
どうしよう…と、アーサーは思う。 本当に…自分は課長補佐の人の良さを舐めすぎていた。 よもや勝手にネットゲームをやめたアリアを未だに心配してくれているなんて思ってもみなかったのだ。 しかもそんな不義理をしたのに、ひょっこり戻ったら必要とされているなら手を差し伸べて...
「大切なって言ってもリアルで付き合いはねえんだよ…」 引かれるかな…と思いつつカミングアウトする事にしたギルベルト。 それは一つの選択をする事になる告白だった。
…ぎ…る……… 赤く潤んだ目…かすれた声。 飛び起きたアーサーは改めて見ると、病人かどうか悩むところで、 「…熱…か?」 と、コツンと額と額をあてると熱い感じはしなかったのだが、顔を話してみると顔が真っ赤なので、実は熱があるのかもしれない。
──1人で帰らせたぁあーー?!!! 自分の手で大切に大切に育てている新人、愛息子ことアーサーを1人残して、営業部に借り出されて他社訪問。 急いで帰るつもりだったのだが意外に話が長引いて、ギルベルトが帰社できたのは3時過ぎだった。
課長補佐が結婚…… 自宅に戻って上着だけ椅子に放り出すと、アーサーはベッドにもぐりこんでテディを抱きしめて声を押し殺して泣いた。
課長補佐の婚期…… その言葉は言うなれば猛獣の中に肉を投げ入れたようなものだった。 実にわかりやすく食い付く女性陣。
「ギルベルトさんのことなんだけど…」 と、それでもうながされたのもあって最初に一歩踏み出してきた女性が口を開いた。 どうやら彼女がリーダー格らしい。 「はい。なんでしょう?」 と、それにやっぱりコテンと小首をかしげて聞くアーサー。
天使の本気を見たっ!! ……と、この時の様子を本田は語った。 ギルベルトがのちにその時の様子を聞いて、色々な意味で地団太を踏んだ事件である。
「カークランド君、ちょっと良いかな?」 他部署のフロアまで足を踏み入れて来た女性陣。 その集団から 1 人が一歩前へ出た。 笑みを浮かべているが、和やかさはない。 どこか緊張をはらんでいる。
視線、視線、視線、視線…… 化粧品のポスター撮りが終わって数日… 様々な視線がアーサーに向けられる。
あ~ちくしょうっ!可愛いっ!可愛すぎだろっ!!! 今日はポスター撮りだ。 ギルベルトは“ カッコいい ”をイメージした化粧を施されて、カメラの前に立っている。 話が来た時はどんな格好をさせられるのかと戦々恐々としたものだが、実際には街中にいるイメージというこ...
…かっ……こいいっ!!! 今日はポスター撮りとのことで課長補佐とアーサーに化粧を施すためにメーカーの方からプロのメークアップアーティストが来ていた。 そして普通に社内にあるスタジオでメイク済みの私服の課長補佐がカメラの前に立っている。
「相手はアーサー君一択ですか…」 と、それに対して本田が思ったのはそこだ。 そして思ったままを口に出す。 するとエリザの目がキラッ!と光った。
「最初はね、なんか似てるなぁって思ったのよね」 食事が美味しい。 めっちゃ美味しい。
3 人きりにしては随分と広めの部屋。 「普段はね、ここで皆で交流会してるのよ」 と、本田のすぐあとに続いて部屋に入ったエリザが言う。 「人払いしてあるから楽にしてね?」 と、エリザにうながされた、すでに酒とオードブルが用意された広いテーブルには、もう一人、...