とある白姫の誕生秘話──重すぎる善意と軽すぎる悪意3

天使の本気を見たっ!!……と、この時の様子を本田は語った。

ギルベルトがのちにその時の様子を聞いて、色々な意味で地団太を踏んだ事件である。


ギルベルトが営業部に駆り出されて帰社が午後になってしまう日。

──アルトに変なちょっかいかけて来る奴いたら絶対に守ってやってくれなっ!!
と、無茶な依頼をされて、戦々恐々と過ごした日の昼休み。

案の定、鬼の居ぬ間にとばかりに、見知らぬ女性社員達に囲まれた。

「カークランド君、ちょっと良いかな?」
と言うが、ちょっとでもダメと言ったって帰る気はないんでしょう?と本田は恐怖と焦りで泣きそうな気分で思う。

自身も転属直後にギルベルトにずっと側でフォローをいれてもらっていた頃に、『課長補佐に甘えすぎじゃないですか?』『立場を利用しすぎですよ』などと突きあげをくらって、それが未だにトラウマになっていたりするので、出来れば逃げたかった。

が、その恐怖心以上に、今では部下である前に本田の親友とも言えるギルベルトに頼まれた新人に同じトラウマを植え付けるわけにはいかないという義務感が勝つ。

勝って
「あの…課長補佐の留守中は私がカークランドさんの諸々を任されているので、お話なら私が…」
と、間に入ろうとしたのだが、

「プライベートのことなので、本田課長には関係ないです。
今は休憩中ですし?」
と、一蹴されて一瞬で心が折れた。


ああ、どうしよう…と、自分の方が泣きそうになった本田だが、ギルベルトからお預かりしている大切な大切な愛息子君は、本田が考えていたよりも遥かにすごかった。

「あの…こんなに素敵なレディ達が俺なんかに何か…と言う事はないでしょうし、もしかして課長補佐についてのことでしょうか?
直属の部下でいつも一緒だから色々知っているかも…とか?
食事を広げていて申し訳ありませんが、よろしければお座りになられませんか?
レディを立たせたままなんて失礼な事をしていたら、課長補佐に叱られます」

と、お人形のような愛らしさ全開の童顔に天使の笑みを浮かべて、女性陣に席を勧めるではないか。

桜色の小さな口でレディを連呼。
本当にその数秒間の間に一気に空気が変わった。

「お茶を淹れて来ますね」
と、彼が中座をして残った女性陣の中から出るため息…

──かっ…わいい…
──リトルプリンス?

小さくはしゃいでソファに座る女性陣を前に、自分の時と随分と様相が違うことに感心する本田。

確かに自分が見ても控えめに言って天使だ。
あの恐ろしい空気の女性陣を前にしてあの対応はすごい。本当にすごい。


戻って来たアーサーの手には紅茶のポットとカップの乗ったトレイ。
目の前で一杯一杯とぽとぽと、実に優雅な手つきで淹れた紅茶を、また、

「どうぞ?レディ」
と、11人に天使の笑みで配って行く様子は、まるで映画のワンシーンのようで、男の本田でも見惚れてしまうほどだ。


こうして4人全員に紅茶を淹れ終わって、本田の分まで淹れてくれて、ひと段落したところで

「お待たせして申し訳ありません。
お話をお聞かせ下さい、レディ?」

と、愛らしい童顔に笑みを浮かべて、コテンと小首を傾けるなんてあざと可愛いおまけ付きで話をうながす頃には、天使のオーラの前に女性陣のトゲも完全に溶けてしまっていた。



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