白姫
── ア~ルト、今日夕飯何が食いたい? ── 課長補佐、社内でじゃれつくのはやめてください。 … 食事はシュニッツェルが食べたいです。
「アーサー君、お~ね~がいっ!!」 「いくらレディのお願いといえど、嫌ですよ。勘弁してください。 どうしてもなら、課長補佐にお願いしてください。 課長補佐だって綺麗な顔立ちはしていらっしゃるでしょう?」 「え?俺様ぁ~?!!」 「だって約束違います...
「話すと長くなる。 質問はあとで受け付けるから、とりあえず一通り聞いてくれ」 ギルベルトはそう前置きして、ネットゲーム上でのアリアとの出会いから始まって、それと知らずにアーサーと入社試験で出会ったときのこと、その他諸々をエリザに打ち明けた。
とりあえず車を飛ばして一旦エリザの家に行く。 おしゃれな都会のマンション。 「入って。鍵閉めてきてね」 と言われて玄関に入れば、まるで別世界。 嫌な方向での ……
またやられたっ!! 帰宅後にアーサーにどうしてもと買い物を頼まれて、車で 10 分程の店に買いに行って戻ってきたら、リビングに置き手紙を残してアーサーが消えていた。
そこからは驚きの連続だった。 まず課長補佐と結婚しているのがアーサーだったというのに驚く。 いや、あの溺愛っぷりを見れば、アーサーを差し置いて他の女と結婚したと言う方が驚くところだったのかもしれないが…
「たびたび迷惑かけてごめん……」 待ち合わせの場所に行くと、両手にボストンを持ったアーサーが佇んでいる。 「いや、全然大丈夫だよ。 今の俺があるのは君のおかげだし、本当に気にしないで」 と言ったのは保身のためじゃない。 本心だ。
──茂部君…また泊めてもらってはダメかな? アーサーに電話して自分だと名乗ると、開口一番それを言われた瞬間に、茂部太郎は絶望した。 そしてまた思う… 前門の虎 ( エリザさん ) 後門の狼 ( バイルシュミット課長補佐 ) …と……
茂部太郎は目先の恐怖に負けた。 そして、茂部太郎がコクコクと首を縦に振ると、上司は満足げに頷いて、ベルと商談に入っていった。 ベルの側で企画書のたたき台はすでにできていたらしく、それを元に色々を話し合っていく2人。
──もぶたろう、もぶたろう~!!! と、今日もいつものように当たり前に呼び付けられる。 入社して数カ月後、バカンスの期間が終わると日常が戻ってきた。
──結婚式は?あげなかったんすか? それは本当に他意のない、単なる素朴な疑問と言うやつだった。 口にした男性社員だって深く考えて言った言葉ではないだろう。
翌日…疲れ過ぎて眠るアーサーを昼過ぎまで待って起こすと、ゆっくりと昼食を摂り、その後に宝飾店へ。 そしてお揃いの指輪を注文。
──…やっちまった……最悪だ…… ギルベルトのわずかばかりの理性が戻ったのは、朝の日差しが差し込み始めた頃である。 目の前には涙の跡の残る顔で意識を飛ばしている恋人。
色々が実に和やかに進んだオンラインゲーム内のギルド仲間への報告会も、以前ログインしていた頃の習慣で、0時を過ぎた頃にお開き。 ああ、楽しかった。 そろそろ寝るか~!となった時、何故かパタンとPCを閉じて、当たり前にそのままぱふんとベッドに横たわるアーサーに目が点の...
──俺様な、実は数カ月前に偶然お姫さんに会ったんだ。 いきなりの爆弾発言。 「「「「えええええーーー?!!!!」」」」 驚いたのはギルドメンだけではない。 隣でアーサーも驚いた。 が、後者はその後に続くギルベルトの話で、ああ、あれか…と、納得す...
──久々に一緒にログインしようぜっ!! …と、それがギルベルトに言えた精いっぱいだった。
こうして風呂をなんとか切り抜け、夜。 自分で希望したものの、こういう場所で改めてお姫さんモードのアーサーといると、色々と危険な事がわかった。
ネットも入れれば交際期間 3 年弱。 こちらで指輪を買ってプロポーズ。 そしてそのままできれば正式に籍を入れる… そんな完璧すぎる計画は、滞りなく実行されねばならない。 …そう、思っていたのだが、レストランから別荘に帰宅後、早くも瓦解のピンチに陥る事に...
道行く人が振り返って行く。 美しければ老若男女ウェルカムと言う古くからの悪友などは、そんな状況にご満悦になる気がするが、ギルベルト自身はそんな人目をひくほどに愛らしい恋人に複雑な気分だ。
片付けが一通り終わると、日はもう西に傾いていた。 なので、ギルベルトは急いでシャワーを浴びると服を引っ張り出して着替える。 そう、アーサーはすでに着替えさせていたが、自分は大荷物を運ぶというのもあって、車を運転していた時のラフな格好のままだったのだ。