とある白姫の誕生秘話──Mの悲劇再び7

とりあえず車を飛ばして一旦エリザの家に行く。

おしゃれな都会のマンション。

「入って。鍵閉めてきてね」
と言われて玄関に入れば、まるで別世界。

嫌な方向での……


たぶんギルベルトは神経質すぎるのかもしれない。
が、余計なお世話とは思うが、エリザはもう少し神経を使ったほうが良いと思う。

「こんな時間に悪かったな」
と、言いつつ、自分のはもちろん、エリザが雑多に放り出したままにしている何足かの靴を、綺麗に揃えてから上がるギルベルト。

外では綺麗なお姉さんだが、エリザは家庭内ではこの調子なので、自分よりもエリザの方が専業で主婦をやってくれるようなパートナーを探した方が良いと思わないでもない。

「座ってて。ミネラルウォーターでいいわよね?」
とキッチンへ向かうエリザ。

通されたリビングの惨状にギルベルトはまたエリザの脱ぎ散らかした服を一部はたたみ、一部はハンガーにかけて、散乱する雑誌はマガジンラックや本棚に並べて待った。


「あんた、ほんっとうに綺麗好きよね」

と、そのあたりは幼馴染で慣れていることもあって、物を動かされても全く動じず、当たり前にミネラルウォーターのペットボトルを放り投げてくるエリザに、普段なら『お前これ人間の住処じゃねえぞ。少しは片付けろ』などというところだが、今回は協力してもらうためにこんな時間に訪ねてきたわけなのだから、その手の言葉は飲み込んで、

「いや物がソファを占領してて座る場所がなかったから
と、ペットボトルを宙で受け止めると、ギルベルトは改めてソファに座る。

プライベートスペースの片付けとなると、絶望的な手際の悪さのエリザだが、そこで正面のソファに座った彼女から出てきた話は、思わず感心してしまうくらいの手際の良さだった。


「会社の部下からあんたが結婚したという話聞いてね。
アーサー君どうしてる?って聞いたら、どことなく元気がない気がするって返ってきたから、同期の茂部太郎になら何か話すかなぁって思って、茂部太郎にアーサーくんに連絡入れて、もし悩んでいるようならとりあえず自分の家に誘いなさいって指示したの。

だって、前みたいにふらっと出て行くのに、知らないところ行かれるより、居所わかってたほうが良いじゃない?

で、あたしはアーサー君とも仕事で一緒して知らない仲じゃないし、なによりあんたと幼馴染で何か要求があるなら交渉しやすいと思うから、できればあたしも合流させてって打診しなさいって言ってあるわ。

茂部太郎から連絡が来たらとりあえずあたしも話を聞きに行くけど、あんたが同行できるかどうかは状況次第ね。
でも悪い方向にはいかないように頑張って見るから。

で?結婚したって誰と?
協力するんだから隠し事はなしよ?
説得しようにもきちんと状況把握できてないと困るし、もし言ったことを秘密にしてほしいなら知らないふりしてあげるから、白状しなさい」


言われなくても全てを言うつもりだ。

というか、ギルベルト自身、恋愛経験がなさすぎて、どう動くのが正解なのかが全くわからないので、むしろ、秘密にするし、全てを知った上で協力するからというエリザの申し出は心底ありがたかった。



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