とある白姫の誕生秘話──Mの悲劇再び8

「話すと長くなる。
質問はあとで受け付けるから、とりあえず一通り聞いてくれ」

ギルベルトはそう前置きして、ネットゲーム上でのアリアとの出会いから始まって、それと知らずにアーサーと入社試験で出会ったときのこと、その他諸々をエリザに打ち明けた。

事実は小説より奇なりというが、黙って聞いているエリザの表情はまさにそんな印象を受けているような様子だ。
自分だって他人事ならそう思う。

話している最中ずっとエリザが目をキラキラさせていたので、

「一応言っておくが、これ他言はNG。プライバシーだからな。
俺様ならまだいいけど、アルトのことでもあるからな?」
と念の為注意。

それに対しては
「わかってるわよ。
あたしが個人的に脳内で楽しんでるだけだからスルーして。
早く続きっ!!」
と、言う返事が返ってきて、ため息が出た。


こうして最後、いいよってくる女性社員避け&地元ではなかなか味わえないお姫さんとの生活を楽しむために、アーサーにお姫さんぽい格好をしてもらってバカンスを過ごしたこと。

そして、入籍したものの、それが女性陣にバレて攻撃されると怖いので、入籍したことが嘘でないこと、そして、その相手がみんなの知らない相手だと思わせるために、その時に撮った写真を使ったことなどを説明。

そしてさらに最後の最後に、
「これは俺様の主観だけど
と前置きして
「写真を見せてる時に、一人が式の写真はないのか?と言ったあたりで、アルトがちょっと暗い顔をした気がするんだよな。
それで俺様も気をつけようと思って一緒に帰宅したんだけど、買い物頼まれて車で近所に買いに行ってる間に置き手紙残していなくなってたわけなんだけど
と、若干エリザの私見を問うような感じの言葉で締めた。

「直接的な原因はそれね。
なんとなく何故家を出たのかはわかったわ」

ギルベルトにしてみたら原因はわかっても理由はわからない、そんな状況なのに、エリザにはわかるらしい。
もしエリザが考えている通りの理由だとしたら、本当に尊敬に値するとギルベルトは思った。

そしてその後はエリザのターンだ。
手にしたペットボトルから実に漢らしい仕草でぐいっと水を飲むと、説明してくれる。

「たぶんね、結婚式をあげていない、あげられない状況がイコール、本来なら大勢に祝福されて結婚できたであろうあんたの人生を自分のせいで暗いものにしてるって思って、自分を責めちゃったんじゃないかしらね」

「え?でも隠したいって言ったのはアルトで、俺様は別にアルトが俺の伴侶だって世界の中心で叫んでも全然良いってか、叫んでアルトに近づく奴ら全部追っ払いたいくらいなんだけど?」

エリザの考えは本当にアーサーの性格を熟知しているギルベルトでも納得できるようなもので、しかし状況的には自分は別にアーサーとの結婚を不幸だなどとは欠片も思っていないことを告げると、

「だからよ。
あの子、自己肯定感が限りなく低い子だから、それでなくても自分なんかが社内で有名なエリートとって思っているところに、自分の都合で結婚を隠さないといけないとか不自由をさせてて、本来だったらもらえる祝福の言葉とかももらえないとか、そんな感じかな?
あんたがどう思っているとかじゃなくてね」

「あ~~!!!」」
言われてみれば、もうその通りだと思う。
まさにアーサーが言いそう、考えそうなパターンなのに、何故自分は気づかないのか。

「で全部他人に教えてもらうとか、情けねえし、本来はNGで、自分で努力するべきだと思うんだけどな?俺様、経験値が少なすぎて、色々試行錯誤してる時間が長ければ長いほど、アルトを傷つけて、下手すると潰しちまうから……
あとで絶対に埋め合わせする。
というか、そこはしとかねえと、俺様、伴侶持つ資格とかない気がするから、自分に足りない知識を与えてもらう分の埋め合わせは絶対にするから、どうすればアルトを一番傷つけないですむか、教えてもらえねえか?」

これまで本当に好きな相手以外とは恋愛はしないという自分の生き方に迷いは全くなかったが、今回はそれを心底後悔した。

せめて自分はしなくても、他人の恋愛、恋バナくらいは知識として積極的に耳を傾けておくべきだったと、ギルベルトは今、痛感している。

それに対してエリザは少し目を丸くして

「あんたが全面的に誰かを頼るのって珍しいわよね」
と、言ったあとに、ゴクゴクっとペットボトルの水を飲み干してドン!とテーブルに置くと、

「ま、いいわ。
報酬はあたしの仕事への協力かな。
目指すものは同じで一石二鳥だし?
大丈夫っ!エリザさんに任せておきなさい!」

と、実に頼もしい様子で、その願いを請け負った。



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