とある白姫の誕生秘話──Mの悲劇再び6

またやられたっ!!

帰宅後にアーサーにどうしてもと買い物を頼まれて、車で10分程の店に買いに行って戻ってきたら、リビングに置き手紙を残してアーサーが消えていた。

しばらく距離を置きたいという事以外、理由は書いていない。

とりあえず実家はないし、駆け込めるとしたらあそこか?
と、ギルベルトは一瞬また茂部太郎のアパートに凸するべきかと腰を上げたが、ソファに座り直す。

おそらく無理やり戻したところで、同じことの繰り返しだろう。

アーサーはおそらく自分には本当のことを言ってくれない気がするし…と思うと、脳裏に浮かぶのは腐れ縁の幼馴染。

大変不本意ながら、やつは自分よりもそのあたりの感情の機微というのに敏いし、おそらくアーサーが駆け込んでいる先の家主、茂部太郎の直属の上司だ。

本人がわからなくても茂部太郎を介して聞き出させることができる気がする。

背に腹は変えられない…そう思ってスマホを手にしたとき、すごいタイミングでまさに今電話をかけようとしていた相手からの着信があった。

「エリザ、ちょうど良かった。
お前に頼みたいことがあって…」

と、切り出すと、なんと相手は

『アーサー君のことでしょ』
と、返してくる。


その切り返しに一瞬驚いて、しかしアーサーが茂部太郎の所に転がり込んでいる可能性を考えると、エリザに連絡が行っている可能性もあるのか…と、納得した。



そうなれば話は早い。

「おう。なんつ~か…あれか?またあいつの所に転がり込んでるのか?」

と聞けば、エリザは電話の向こうで苦笑する。

『あたしの大事な部下をいじめないでよ?
今回はアーサー君が微妙に元気なさそうだったって情報が入ったから、あたしが茂部太郎に連絡入れさせたの。
家出されるんでも、場所がわかってたほうが対処しやすいでしょ』

そう言われたらもう怒るに怒れない。


「で?電話したら転がり込ませてくれって?」

『悩んでいるようならうちで話す?って持ちかけなさいって指示したの。
暴走して変な場所で変な輩に絡まれでもしたら大変だし。
今回は茂部太郎のせいでは全くないわよ。
強いて言うなら、あたしの善意ってやつ?
あたしは常に可愛い男の子の味方だから』

というエリザの言葉を疑うつもりはない。
昔からエリザはそういう奴だ。

可愛い男の子が大好きで、それが高じて男同士の恋愛の話が好きな、いわゆる腐女子というやつである。

趣味と実益とほんのちょっぴりの幼馴染への情けで介入したと言われれば、納得できすぎるくらい納得できてしまった。

いつもいつも何かあるとそういう自分の趣味に巻き込みたがるので困り果てていたが、今回ばかりはエリザのその趣味に感謝する。

「もう背に腹は代えられねえし、取り繕っても仕方ねえ。
全部話すから協力してくれ」

そう、アーサーを取り戻すためなら、自分だけなら最悪エリザの趣味に付き合って遊ばれてやっても良いとすら思う。

とにかく一生に一度の恋で、最初で最後の伴侶なのだ。

ギルベルトが電話口で頭を下げると、見えはしないが気持ちは伝わっているのだろう。

『真剣に相手を想っている人間を茶化す気はないし、あんたがうまく行けば、あたし的にもいろいろメリットはあるから、ドンと任せなさい』

と、返ってくる言葉が頼もしすぎて、ギルベルトは泣きそうになった。



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