とある白姫の誕生秘話──Mの悲劇再び5

そこからは驚きの連続だった。

まず課長補佐と結婚しているのがアーサーだったというのに驚く。
いや、あの溺愛っぷりを見れば、アーサーを差し置いて他の女と結婚したと言う方が驚くところだったのかもしれないが… 

そしてバイルシュミット課長補佐のファンの女性陣が恐ろしいのでそれを隠したいと言うのは納得。

何度か見かけた事があるが、バイルシュミット課長補佐のおっかけは恐ろしい。
ギラギラしていて、まさに肉食系と言った感じだ。

まあ自分みたいにモブを体現したような人間には目もくれないので自分にとっては無害だが、確かにあんなのに日常的に追いかけられていたら、女性に興味がなくなっても仕方ないのでは…と、そこは秘かに同情するし、あの女性陣に敵意を向けられたらと思うと、入籍を隠したくなるアーサーの気持ちもよくわかった。

そして課長補佐が妻だと見せた写真はなんと課長補佐の意向で女性避けにわざわざアーサーが女装した写真だと言うから驚きだ。

なにしろ茂部太郎自身は実物を見ていないが、会社の男性陣が口を揃えて絶世の美女だった、さすが課長補佐だと大絶賛していたのだ。

あれだけ課長補佐命の美女軍団が、それでも“あんなブス”と言う言葉は使っていなかったのを考えても、おそらくよほど美人だったのだろう。

課長補佐が好みそうな…しかし、実際に出くわして身バレしないという事を考えると、なかなか妙案だなと、茂部太郎は感心した。


しかし、さて、そうなると今回の家出の理由はなんなのだろうか…。

茂部太郎は実は課長補佐が入籍したので自分が邪魔になるのでは…と思っての家出かと思っていたのだが、入籍した相手がアーサー自身だということだから、それはないだろうし。

そう思いはしたものの、まあこちらから無理に聞きだすのもと思って、話に相槌だけは打ちつつ黙って聞いていると、やがて話はそのあたりの方向へと向かう…が……

──俺のせいで結婚式も挙げられず誰にも祝福されない結婚なんて、ギルに申し訳な過ぎて……

と、それが家出理由だと言うので、茂部太郎には意味不明だ。

だって別に課長補佐はアーサーが伴侶な事に何も問題を感じていないらしいし、アーサーがオープンにしたいと言ったなら、全力で…それこそ世界の中心で叫びそうな勢いで広める気がするのだが…

とりあえずそれは課長補佐の方の話として、問題はアーサーの気持ちだ。
でも結局前回の家出も茂部太郎からするとどこをどう考えたらそんな結論に行きつく?と思うような理由だった気がする。
それを指摘する前に連れ帰られてしまったので、今回も同じなのか知った上で対処しようと、アーサーが話すのをひたすらに黙って聞いていた。

そして…

「このまま俺といるとギルに迷惑だと思うんだ…
だから出来れば別れてあげたい……」

と、最終的にアーサーが口にした時点で、頭を抱えたくなった。


これたぶん…しょっちゅうこんな感じに斜め上ではなく斜め下あたりにずれた方向で暴走して、勝手に迷惑だから別れなければ…というアーサーを課長補佐が必死に軌道修正しているんじゃないだろうか……

でも当事者同士だと、アーサーいわく“ギルは優しすぎるから”ということで信じない気もするので、第三者を入れたい。

…が、自分では役不足だろう。

エリザに入って欲しい。
というか、彼女なら絶対にイケル気がする。

ということで、茂部太郎は考える。

そして敢えてアーサーの行動を止めるような事は言わず、

「課長補佐に関して何か通したいなら、うちの上司のエリザさんに入ってもらえばいいんじゃないかな?
課長補佐の幼馴染だから説得も上手く出来ると思うし、カークランド君の要望に関しては俺がエリザさんとの間に入って通してもらうから。

自分で言うのもなんだけど…エリザさんには結構信頼してもらえてるし、俺が言えば聞いてもらえると思うよ」

と、提案してみる。


アーサーはその提案に少し悩んでいるようだったので、茂部太郎がさらに

「エリザさん、今回の撮影でカークランド君のことも結構気に入ってて、何か困った事があったらぜひ力になりたいから、もし自分に直接手を出させたくないようなら、俺を通してでも良いから力になるから言ってくれっていつも言ってくれてたんだ」

と言うと、やっぱり少し迷って、でも結局頷いた。


…ああ…これで大丈夫。助かった……
と、それを見て茂部太郎は思った。

アーサーの件の解決に関して…そして、自分の命の保証に関しての…両方に対して…



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