とある白姫の誕生秘話──Mの悲劇再び3

──茂部君…また泊めてもらってはダメかな?

アーサーに電話して自分だと名乗ると、開口一番それを言われた瞬間に、茂部太郎は絶望した。

そしてまた思う…前門の虎(エリザさん)後門の狼(バイルシュミット課長補佐)…と……


どちらにしても今日が自分の命日だ。
モブにしてはあり得ないレベルで華々しく散る事になるだろう。

しかし茂部太郎に拒否権はない。

そうして覚悟を決めてアーサーに電話したら、いきなり冒頭のセリフだ。

…ああ、俺の人生終わったかも……
と、頭を抱えたくなっても無理はない。


それでもここで“”と返すと言う選択はない。
それをやったらエリザはもちろん、おそらく理不尽ではあるがバイルシュミット課長補佐にも殺される。

「いいよ。今まだ会社だから、少し遅くなるけど。
場所わかる?
わからなければ駅まで迎えに行くけど」

と言って、時間と待ち合わせ場所を決めていったん電話を切る。


そしてまたエリザに状況説明のメール。
出来ればエリザにも介入して欲しい。
エリザならばアーサーと知らない仲でもない上に、課長補佐の幼馴染なので間に入るには自分よりも適任なのではないかと思う。

と言うことも添えておく。


だって怖い、バイルシュミット課長補佐怖い。
今度こそ殺されるかもしれない。

茂部太郎も必死である。


すると返ってきたエリザの返答。

『わかったわ。でもギルの方からも話を聞かないとだから、まずあんたはアーサー君の側の話を聞いておいて。その上であたしを呼んでも良いか許可を得なさい。
理由はあたしはギルの事をよく知っているから、離れるにしても戻るにしても、相手を説得しやすいからとでも言って。
あたしはまずギルから事情を聞く前に、アーサー君を確保するために茂部太郎にアーサー君に連絡を入れるよう指示すると言うから。そうしたらあんたのせいじゃなくなるでしょ。
で、そのあとギルから話を聞いて、まずあたしがアーサー君に会うと言う形にするわ』

さすがエリザチーフ…さすがだ…と、茂部太郎は涙する。

これで課長補佐に粉砕される可能性は少しは軽減したはずだ。

あとは自分がエリザを呼ぶ事をアーサーに納得させれば、自分自身の身の安全は半分以上確保できたも同然だ。

こうして茂部太郎はだいぶ軽くなった足取りで、自分のアパートの最寄り駅を目指して電車に乗った。



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