とある白姫の誕生秘話──秘密結婚2

──結婚式は?あげなかったんすか?

それは本当に他意のない、単なる素朴な疑問と言うやつだった。
口にした男性社員だって深く考えて言った言葉ではないだろう。

でもそれはアーサーにとって、“この関係はおおやけに出来ない関係”であるという事を再認識させる言葉だった。

籍を入れてまだ一月も経っていない。
いわゆる新婚家庭だ。

普通なら、友人知人に囲まれて祝福されながら神の前で永遠の愛を誓って、2人で手を繋ぎながら買い物に行ったり、デートをしたり、時にはそんな光景を知人に見られて冷やかされたりと、そんな感じなのだろう。

でも自分達は社内では休憩中でも普通に上司と部下。
もちろん外でも親しい同居人ではあっても、その関係は崩さない。

一歩家に入ればギルベルトは良き恋人で良き伴侶で、とても優しく甘く大切にしてはくれるが、それは自宅の中だけで、むしろその空間だけが特殊な空間となっている。

世界の大部分の空間では自分達はおおやけにできない、隠さなければならない祝福されない夫婦なのだ…。

それは本当なら皆に自慢できるような素晴らしい女性を妻とする事も出来たであろうギルにとても申し訳ない気がしたし、素晴らしいとまでは行かなくても普通に他人に紹介できるような伴侶にはなれない自分が、とても惨めで悲しく思えた。

もういっそのこと別れてあげた方がギルのためなんじゃないだろうか…そんな考えも脳裏をよぎる。
そのくらいなら最初から籍を入れなければ、ギルの戸籍を汚さずに済んだのに…と、さらに落ち込んで、自室に閉じこもってお気に入りのティディを抱きしめて泣いた。

どうしよう…どうすればいい?

ギルは優しいからアーサーの事が迷惑だとか言えるはずがない。
なら、ギルが安心して自分を見放せるようにしてあげるのが、彼の輝かしい人生に自分みたいな人間と入籍してしまったと言う汚点をつけてしまった自分にできる唯一の罪滅ぼしだ…

そう思っても、さてどうすればいいのだろうか……

前回家出した時もそうだったが、自分には実家がない。
となると…どうしようか…


とりあえず今日はまだ良い考えも思いつかず、もう役所が開いている時間ではないので、書類は後日整えよう、と、そう思って手紙だけ書いた。



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