とある白姫の誕生秘話──お姫さんと俺様12

片付けが一通り終わると、日はもう西に傾いていた。

なので、ギルベルトは急いでシャワーを浴びると服を引っ張り出して着替える。

そう、アーサーはすでに着替えさせていたが、自分は大荷物を運ぶというのもあって、車を運転していた時のラフな格好のままだったのだ。

レストランはリゾート地なのでそこまできちっとしたドレスコードもないが、まあ高級に入る部類のレストランだし、そもそもがそこそこのお値段の清楚で品の良いワンピースを着るお姫さんをエスコートするのにジーンズのままと言うのも気が引ける。

なので、セミフォーマルくらいの…しかし街中を歩いていて浮かない程度の服をピックアップした。



「お姫さん、片付け終わったか?
終わったなら予約の時間には少し早いけど、周りの店でもぶらつきがてら時間潰すか?」


トントンと開いているドアをノックして言えば、ぺたんと絨毯の上に座り込んで、いつも一緒に寝ている一番大きなクマに何やら嬉しそうに話かけていたアーサーは、ぱあぁ~っと嬉しそうな表情で顔をあげた。

「行きますっ!
お店回りたいですっ!!」

じゃあ、あとでね、と、クマをベッドに座らせて、パタパタと走り寄ってくるアーサーことお姫さん。

「こっちにもね、ティディの専門店があるんですよっ!!」

ジャン!!とばかりに両手で差し出してきたスマホの画面には、愛らしいクマが並んだショップのホームページ。


本当は宝飾店を覗いて、少し指輪の下見をしたかったのだが、こんなに嬉しくて嬉しくて堪らないと言うようなキラキラした目で言われたら、譲らない訳にはいかない。

「ふむ…レストランからも遠くはねえな。
じゃ、いったん車停めてから予約の時間までお姫さんの新しいお友だちを物色だな」

と、ちゃらりと車のキーがついたキーホルダーを指先で揺らすと、ギルベルトの可愛い可愛いお姫様は満面の笑みで大きく頷いた。



もう少し外に出るのは躊躇するかと思っていたのだが、それを口にすれば

「月に1度くらいはミアさんとお買い物してたので」
と、返って来て、もやっとする。

そう言えばアーサーは月に一度くらいの頻度ででかけていたが、あれがそれだったのか…

さらに話を聞いてみると、いつもいったんミアの家に行って着替えて出かけて、帰りも着替えて帰って来ていたらしい。

そういう関係ではない、女友達のようなモノだと言っても、恋人が他の男の家で着替えると言うのはやっぱりもやもやする。

「…それいやだ……」
と、こどもっぽいと思いつつも思わず零れ出てしまった言葉に、きょとんとする恋人。

それになんとごまかそうかと考えを巡らせるが、結局、今ごまかしたところで、いつかまた同じことを言ってしまう自分の未来が予想出来すぎて、ギルベルトはため息をついた。


「えっと…な、恋人がたとえ着替えでも他の男の家で裸になんのは複雑な気分でな…。
出かけるまでは…仕方ないけど、着替えは家じゃダメか?
ちゃんと人目につかないように、俺様が車で送るから…」

本当に心が狭いと思われるだろうなぁ…と思ったら、隣で真っ赤になる恋人。

「…お姫さん?」
と、肩を抱いて引き寄せると、腕の中でわたわたと動揺している。

どうしよう…可愛い…

「あ、あのね、ミアさんはお友だちで…というか、ミアさん、好きな方がいて、その相談というか恋バナ?とかも聞いてて…私となんとかということは全然なくって…というか、は、裸って……っっ」

そんなもの見て意識するのはギルさんだけですよ?…と、耳まで真っ赤になりながら上目遣いで見あげられると、我慢できなくなった。

「ごめんな~狭量で。
でもまじお姫さん可愛すぎて、俺様どうにかなりそうなんだけど…」
と、ぎゅうぎゅうと抱きしめる。

この会話をしていたのが外に出る直前の玄関先で良かったと思った。
寝室だと真面目にやばい。

「ぎ、ぎるさんっ、…急がないとお店回る時間が…っ……」

バタバタとしながらそう言うお姫さんを、なんとか理性を総動員して放すと、

「だな。まあ、1カ月近くあるから慌てることもねえけど、レストランの予約もあるしな」
と、アーサーを連れて駐車場へと足を向けた。



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