とある白姫の誕生秘話──お姫さんと俺様11

ちょっとした事ですぐ真っ赤になるほど初心なのに、ふとした瞬間にいたずらな小悪魔に変身する。

確かに中身は可愛い部下と同じはずなのに、ドレスを着た瞬間、本当に少女の性質が溢れてくるのが、不思議だ。

今ギルベルトの前にいるのは確かにアルトではなく、 “あの”お姫さんなのだ。



アーサーが愛用しているティーセットを自宅から持ってきてそれを使っているのだが、着いたばかりで茶菓子は用意できなくて、その菓子皿に乗っているのは、行きがけにスーパーで買ったクッキー。

それを淡いピンクのマニキュアを塗った指先で一つつまんで、口元に運ぶ仕草に目が釘付けになる。

淡い色合いのリップを塗った唇から見える白い歯と、わずかに覗くピンクの舌先に、ごくりと喉がなった。



「ギルさん?ギルさんも食べますか?」
と、差し出される、アーサーが齧った分だけわずかにかけたクッキー。

正直…27にもなって情けない話だが、鼻血が出そうになった。
ドクン、ドクンと心臓が脈打つ音が聞こえてきそうだ。

なにしろ何でも卒なくこなす男と言われていても、DTだ。

それが決してモテないからとかそんな理由じゃなくて、ストイックに相手にこだわり過ぎた結果だとしても、恋人居ない歴=年齢なのだ。

そのくせ、いざ恋人が出来たら色々失敗したくなくて、知識だけはしっかりとつけているので、想像力が人一倍あったりするのが、さらにやばい。



「これ飲んだら、夕食をとるレストランの予約の時間もあるし俺様は荷ほどきするから、悪いけどお姫さん、カップとか片付けておいてくれるか?
下に運ぶのは危ねえからエレベータ使ってな?」

自分の理性的な問題から、なるべく2人きりで差し向かいは避けた方が良いと判断して、ギルベルトは差し出されたクッキーを気合いと根性でなんでもないフリをして齧ると、一気に紅茶を飲みほした。

いつもなら美味しいはずのアーサーが淹れた紅茶も、緊張のあまり味がよくわからない。
何故いきなりこんなに意識してしまったのが自分でもわからない。

それでもおそらく表面上は淡々とした態度が取れているようで、全く怪訝な様子も見せずに、

「夕食っ?!ごはんっ?!」
と、食いしん坊なのはいつものアーサーそのままに、目を輝かせて身を乗り出した。


(ほんっとに、可愛すぎだろうがっ!!)
と、それを見て、さきほどとは別の意味で内心悶えるギルベルト。

色々な意味で可愛くて愛おしくて、思わず腕に抱え込んで強く抱きしめたい衝動に駆られるが、今それをやるとさきほどのような邪心がまた沸き起こるとまずいので、ぐっと堪えた。



こうして少し遅めのお茶の時間が終わると、ギルベルトはノートPCとか、着替えとか、本宅から持って来たものをそれぞれ必要な場所まで運んで荷ほどきをし、その間にアーサーは食器を片づけ終わると戻って来て、自分の使う寝室に本宅から連れて来たクマ達を並べながら、何やら語りかけている。

ギルベルトが使う事にしている寝室とアーサーの寝室はちょうど通路を挟んだ向かい側で、荷物の出し入れがあるため双方開けっぱなしなのもあって、そんな光景が目に入ってくると、本当にずっとネットで一緒だったお姫さんと旅行に来ている感じがした。

まあ、確かにお姫さんの中の人であるのは間違いなくて、しかもお姫さんそのものなのだが……



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