胸元についているパットで出来るわずかな膨らみと、全体的の細く華奢な造りの身体が、どこか儚げで守ってやりたくなるような愛らしさを醸し出している。
印象を変えるため、ややハッキリめに入れたアイライナーと、明るい色のシャドー。
長い光色の睫毛は元々くるんと綺麗なカーブを描いているのでそのままで、太すぎる眉毛は剃るのもなんなので、睫毛と同色のウィッグの前髪で隠している。
元々愛らしい顔立ちではあるのだが、化粧とウィッグ、それにワンピースで、本当に印象が変わって、どこをどうみても絶世の美少女だ。
それもギルベルトの好みのど真ん中、清楚なタイプの……
「…………やばい…」
支度を全て終えた“お姫さん”から少し距離を取ってマジマジと出来栄えを確認して、思わずぽつりと零れたその言葉に、アーサーが
「…だから…成人男子が彼女のフリをするなんて無理があるって言ったじゃないか…」
と不安げな目を向けるので、ギルベルトは
「ちげえよっ!!」
と、大きくかぶりを振った。
「ガチで可愛すぎてやべえんだよっ!!
ほんっきで世界で一番可愛いっ!!!
もうありえねえだろ。これ自分と同性とかほんっとありえねえっ。
この世の全ての女が女やめた方が良いレベルで可愛いんだけど…」
と、もう最後はブツブツと独りごとのようになっている。
とりあえずは写真だ。
こんなあり得ないレベルの可愛い彼女がいる男に迫ってくる身の程知らずはいないとギルベルトは思う。
「お姫さんは自分の好きにしててくれ。
写真は俺様が勝手に撮るから!」
やや興奮気味のギルベルトにそう言われて、アーサーは戸惑った様子を見せるが、そんな表情も可愛すぎて激写。
しかし相変わらず切られるシャッターに、諦めたようにため息をついて、
「これ…使いますよ?」
と、ベッドの上に畳んであった真っ白なエプロンを身につけると、
「とりあえずお茶淹れましょう」
と、ミニキッチンへと足を運んだ。
そこでエプロン姿だけ撮ったら撮影は一旦中断だ。
ギルベルトもアーサーを追ってミニキッチンに行き、アーサーが用意したティーポットと2客のティーカップを乗せたトレイを風呂があるのとは別のテラスに置かれたテーブルに運んだ。
──そのくらい運べるのに……
と、不思議そうな顔をするアーサーに、
──お姫さんの時は力仕事は全部俺様の仕事。大切に大切にかしずくべき恋人だからな。
と言うと、とたんにまんまるの目が大きく見開いて、見る見る間に真っ赤に染まる頬。
なまじ優しくされ慣れていないため、ちょっとした事でそうやって赤くなって動揺してしまうあたりが、ああ、俺様のお姫さんなんだな…と、ギルベルトが知る少女キャラそのままに思えて、ついつい顔がほころんでしまう。
一時はアーサーを守るために諦めかけたその少女も同時に自分の腕の中に抱え込めると思えば、幸せに目がくらみそうだ。
優雅な手つきで淹れる紅茶は味はもちろん絶品なのだが、その淹れる仕草も美しくて動画をこっそり撮りながらも、こんなに綺麗に紅茶を淹れる人間は世界中探してもこの子しかいないので、万が一そこからお姫さんと愛息子が同一人物だとバレて危害が及んではいけない。
だからそれはアプリを利用して他からは見えないように非表示にしておく。
「…さん、…ギルさんっ!!」
スマホを片手にニヤニヤしていると、目の前でアーサーがぷくりと頬を膨らませて
「紅茶が冷めます!
せっかく淹れたんですから、美味しいうちに召し上がって下さい」
と、睨んでいる。
うん、可愛い。
そんな顔をしても世界で一番可愛いだけだ……が……
──お姫さん、なんでいきなり“さんづけ”に敬語?
どこか懐かしくもしっくりくる…が、先ほどまでとの変化に首をかしげるギルベルトに、アーサーは
──あら、私(アリア)はいつも敬語でしたよ、ギルさん?
と、にこりと少しいたずらっぽい目で微笑む。
ああ…もう…確かにお姫さんそのものだが、リアルに舞い降りたお姫さんは、お姫さんであると同時にたいした小悪魔ならしい。
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