とある白姫の誕生秘話──お姫さんと俺様9

「これ…課長補佐の……別荘なんですか……」

その日の夕方…とある北部の街の海辺の建物の敷地内に車が停まった瞬間…アーサーは思わず呼び方と言葉が会社仕様にもどってしまうくらいには驚いた。

だって、海辺も海辺。
裏側のバルコニーから直接砂浜に出られてしまうような位置にあるその建物は、アーサーと5歳ほどしか違わない人間が自宅の一軒家と今ではセカンドハウスとなった元自宅のマンションとは別に第3の家として所有しているにしては随分と立派な建物だったのだ。

「おう。年に数回しか来ねえけど、1カ月に2,3回はハウスキーパーに掃除してもらってるし、今回は特別に前日に掃除に入ってもらってるから、すぐ使える。
あと、アルト、言葉な。バカンスに来てまで“課長補佐”はやめろ。敬語もな」

ギルベルトは少し苦い顔をして呼び方と言葉使いに対して文句を言うと、まずは自分がさっさと降りてトランクや後部座席の荷物を家のドアの前まで運び、最後にアーサーの座っている助手席のドアを開けた。


そうして車を完全に車庫に入れると、戻って来てドアを開け、荷物を玄関先に移すとドアを閉める。



外観からもなんとなく想像はついたが、中も広い。
2階建てで廊下を抜けると広い広いリビング。
奥には海へと抜けられるバルコニー。
左手にはカウンターキッチン。右手には寝室のある2階へ向かう螺旋階段がある。

だが、ギルベルトいわく
「今通って来た廊下の左側な、見てわかったと思うけど、エレベータついてるから。
まあ俺様は荷物とか運び込む用にしてんだけど、アルトはここんとこ体調崩してるしな。
階段きつい時は使えよ」
ということ。

確かにそれっぽいものはあったが、2階建ての個人宅、しかも別荘でそんなものまでついているとは思ってもみなかった。

ざっとリビング周りの説明だけ終えると、ギルベルトは着替えなどを運ぶためいったん玄関先に戻ってトランクをエレベータに運びこむ。

アーサーはせっかくなので少しオシャレな螺旋階段を登って2階に行くことにした。


2階にはゲストルームを含む寝室が3つとプチリビング。
あとはミニキッチンとトイレ、そしてなんとバルコニーに出ると海を見渡せる露天風呂がある。
洗い場は室内。

ちなみに下の階にも当然バストイレはあるが、下のバスルームは室内だ。



「さ、これで大方家の中は案内し終わったな。
じゃあそう言う事でお姫さんと別荘で初撮影だ」

アーサーがバルコニーではしゃいでいる間に荷物の整理を終えてくれたらしい。
ギルベルトが部屋の中で可愛らしいワンピースを持って手招きをする。

もちろん…アーサーに拒否権はない。
部屋に戻るとドレッサーの上には何故かいつのまに買ったのか、ロングヘアのウィッグまで用意されていた。

──さあ、お姫さんに変身タイムだ!!

と実に楽しそうな顔で言うギルベルトに不安しかないが、それでも全てを卒なくこなせる優秀な上司兼恋人だ。
きっと他にはバレないくらいの完成度の化粧なりなんなりを施してくれるのだろう。

アーサーはそう思うと、諦めて渡された服を取って着替え始めた。



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