とある白姫の誕生秘話──お姫さんと俺様19

──…やっちまった……最悪だ……

ギルベルトのわずかばかりの理性が戻ったのは、朝の日差しが差し込み始めた頃である。
目の前には涙の跡の残る顔で意識を飛ばしている恋人。

頭を抱えたくなるような状況でも脳内は物理的にやるべき事を弾きだしていて、ぐちゃぐちゃになったシーツを取り替えて、とにかく身を清めてやらないとと、タオルと湯を用意すべく、洗面所へと走る。

出来れば風呂に入れてやりたいが、今は眠っているので、脱衣場に別途タオルと着替えだけ用意しておいて、湯を入れた洗面器とタオルを持って寝室に戻った…

………
………
………

……ら………


ベッドの上にはこんもりと盛り上がったブランケット。
中から聞こえる泣き声に、ギルベルトはとりあえず床に洗面器を置くと、そのまま土下座。

「悪いっ!!本当にいきなり悪かったっ!!!」

もう他に言葉もなく、そのまま土下座を継続していると、頭上のベッドのブランケットの中からくぐもった泣き声と言葉。

──…しかた…ないけど…っ…しかたない…けどっ……離れるのっ…やだっ……

と、その言葉を聞いて、ギルベルトは意味がわからなさ過ぎてぽかんとしながらも、そこで初めて顔をあげた。

「…あると?」
と、立ち上がってベッド脇まで行くと、ぺろりとブランケットの端をめくる。

ウサギのように真っ赤なまんまるの目が、可哀想だが可愛らしい。
鼻も泣きすぎて真っ赤になっていて、なんだかあどけない泣き顔に、ひどく罪悪感を感じた。

「…なれるの……やだ……」
と、また繰り返される言葉が謎すぎて、ギルベルトは首をかしげる。

「…嫌なら離れなきゃ良いと思うんだけど……離れなきゃ我慢できないほど、怒ってるのか?」

いや、俺様が全て悪いのはわかってる。
我慢がきかなくて急に襲った俺様が悪いのはわかってるけどなっ?

と、それにそう付け足すと、

「…おれが…やでも……はなれてく…だろっ……」
と、また謎発言。

「誰が離れるって?」
「…ぎるが…っ…」
「え??なんで???」

本当っに『なんで??』である。

なんで好きすぎて我慢ができなくてやらかした自分の方が好き好んで離れるって話になるんだ??
正直わけがわからなさすぎて、反応に困ってしまう。

それをそのまま一言で口にした『なんで?』という疑問に対する答えはさらに謎だった。

──…っ…だって…いやになった…だろ…っ…おれのこと……

「はあああ???」

嫌になった?え?ええ?!!
そんな発言は一切した覚えがないし、そう思われる可能性がある要因は…と、脳内さぐってみて、もしかして??と思って

「いきなり襲っちまった事に関しては、単に俺様の理性のなさが原因で、アルトのことを軽く見てるとかじゃねえからな?
言い訳できる立場じゃねえけど……」

と、言うが、違ったらしい。

「…ぎるがっ…おれのこと…やになったからっ……さっき…いなかった……」
と言われて、意味を考えて、あーーー!!!と思った。

「悪いっ!!アルトの身体拭いたり、目を覚ましたら風呂に入れてやろうと思って色々支度してたんだ。
そうだよな。初めての朝くらいは、隣に居て欲しいよな。
本当にごめんな?もう、色々悪かった」

ぎるべるとは物理的な事をついつい優先してしまうが、アーサーは違ったらしい。

その後の話によると、いきなり襲った事は何故か問題ではなく、目が覚めた時にギルベルトが居ない=やっぱり貧相な男の自分を目の当たりにした事でやはり無理だと実感して嫌になった=別れるための支度をしている…と、謎の論理展開が脳内で繰り広げられていたらしく、ギルベルトは驚きと安堵で脱力した。

「あの…さ、アルト、良い事教えてやる…」
「……?」
「こういう事ってな、無理だと思ったら勃たないし、勃たないと出来ねえんだわ。
いまな、俺様、そういう意味では無理じゃなさすぎて、夜が明けるまでな、抱きつぶしちまって、アルトが激怒して三行半突きつけられるんじゃないかって、すげえ怯えながら、リカバリのために色々準備してたわけなんだけど……」

そう言って、おそるおそるちらりとアーサーを見ると、あちらもおそるおそるこちらを伺っている。
その様子が、巣穴からあたりを伺うリスかウサギのようで、可愛すぎて思い切り抱きしめたくなったが、そこは理性で堪えて、

「…今日な、指輪見に宝石店に行って、指輪が用意でき次第、プロポーズ。
婚姻届はもうもらってきてて、俺様の名前は書いてあるから、アルトの名前書いてもらって、出したいなぁ…とか、思ってたんだけど…。
…だめか?」

もう昨日から色々予定が狂い過ぎなのだが、こうなったら予定が大きくずれないうちに、とにかくゴールはしておきたい。

そんな焦りもあって切りだすと、アーサーはぴゅっとブランケットの中に引っ込んでしまった。

「…アルト?」

もしかして襲った事については怒ってないと言いつつ、呆れて愛想を尽かされたのか?と、ひどく不安な気分で名前を呼ぶと、ブランケットの中から最初の時と同様、泣き声まじりのくぐもった声で

──ダメなわけない…だろ……ばかぁ……

と、返事が返って来て、ギルベルトは今度こそ、本当に安堵して肩の力を抜いたのだった。



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