とある白姫の誕生秘話──重すぎる善意と軽すぎる悪意4

「ギルベルトさんのことなんだけど…」
と、それでもうながされたのもあって最初に一歩踏み出してきた女性が口を開いた。

どうやら彼女がリーダー格らしい。

「はい。なんでしょう?」
と、それにやっぱりコテンと小首をかしげて聞くアーサー。

いちいち仕草が幼げで、なんとなくひどいことを言ったりしたりなどする気がなくなってしまうようだ。

女性陣は一様に少し柔らかい表情になっている。


──ホント、愛息子ってわかる気がするよね…
──うんうん…

などと小声で交わされる言葉。

「あのね…」
「はい?」

「アーサー君、ギルベルトさんと一緒に住んでるって聞いたんだけど…」

…と、いつのまにか、カークランド君からアーサー君に変わっている。

「はい。課長補佐のご厚意でお宅に住まわせて頂いてます」

「何故一緒にってことになったの?」

と、なるほど、そこが押しかけて来た一番の原因だったか…と、思いつつ様子を見守っていると、アーサーは太い目の眉を困ったように八の字に寄せた。

すると質問している女性はもちろん、他の女性も一斉にアーサーに注目をする。

「あ、あのっ…」
「なあに?」
「…できればあまり言わないで欲しいんですが……子どもみたいで恥ずかしいから……」

言わないで欲しいというあたりで若干険しさが戻って来た女性陣だったが、“子どもみたいで”の言葉でまた柔らかい雰囲気に戻って頷いた。

「ええ、もちろんよ!プライベートな事情ですもんね!言いふらしたりは絶対しないからっ!!」

という彼女達の言葉は絶対に信用出来ないと思うが、ここで下手に隠したら、今度はない事ない事言いふらされかねない。

だから言わないと言う選択肢はないだろうな…と、本田は小さくため息を零した。

──無言電話が続いてたんです…

は??
と、誰もがぽかんとする。

「無言ていうか…出ると、電話の向こうではぁはぁ言うやつ。
息遣い電話?
大学の後半くらいからずっと続いてて…胃を壊して課長補佐に病院に連れて行かれた後、色々聞かれてそれ言ったら、課長補佐が1人じゃ危ないからって…。
あ、元々ご自宅はビジネス街のマンションだと通勤は便利だけど生活に不便だからって購入されて、1人じゃ広すぎるとはおっしゃってたんですけどね。
それで俺のこと思い出したらしくて…
生活に便利な場所に…ってことは、そろそろ色々考えてるのかなぁとか、それで俺が居候して良いのかなぁとか色々思ってたんですけど、『お前がちゃんと巣立つまではちゃんと面倒みてやるから、心配すんな!』とか言われてしまって…」

「シングルファーザーね…」
「うん、子育て中の父親…」
「なるほど、愛息子……」


そんな声が漏れる中、アーサーはしょぼんとうなだれて言った。

「俺のことより…こんな事してたら課長補佐の方が婚期逃しちゃうんじゃないかと心配なんですけど……」

と、その言葉に、再び、ギン!!と光る女性陣の目。

「アーサー君」
「…はい?」

にこやかに空気は肉食獣のそれだが、声音は小さな子どもに話かけるようなゆっくりとした優しい響きのアンバランスさが怖い…と、本田は思う。

そんな空気に気づいてか気づかないでか、アーサーは相変わらず、コテンと小首をかしげる。



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