他部署のフロアまで足を踏み入れて来た女性陣。
その集団から1人が一歩前へ出た。
笑みを浮かべているが、和やかさはない。
どこか緊張をはらんでいる。
「あの…課長補佐の留守中は私がカークランドさんの諸々を任されているので、お話なら私が…」
と、自身もその手のことが不得意なだけではなくトラウマさえあるにも関わらず本田が間に入ろうとするが、
「プライベートのことなので、本田課長には関係ないです。
今は休憩中ですし?」
と、別の女性が口元は笑って入るが眼が笑っていない、恐ろしい笑みを浮かべて言うのに言葉を無くした。
そんなやりとりの間、アーサーは必死に脳内で対応を考えている。
彼女達の目的は十中八九バイルシュミット課長補佐に関してのことだろう。
それなら自分は別に彼女達のライバルや妨害をする存在にはならないはずだ。
…もちろん彼女達がそうわかってくれているとは限らないので、そこは穏便にわかって頂くのが安全への第一歩である。
元々頭は悪くない上、幼い頃から親戚のおばさま達にいびられる実母を見て育っているので、感情的には非常に苦手ではあるが、物理的な対処に関してはわからなくはない。
そこで小さく深呼吸。
「あの…こんなに素敵なレディ達が俺なんかに何か…と言う事はないでしょうし、もしかして課長補佐についてのことでしょうか?
直属の部下でいつも一緒だから色々知っているかも…とか?
食事を広げていて申し訳ありませんが、よろしければお座りになられませんか?
レディを立たせたままなんて失礼な事をしていたら、課長補佐に叱られます」
と、ソファを広く使って本田と向かい合わせに座っていたところを、ランチを本田の方に寄せて自分は彼の隣に行く旨を暗に示したうえで、にこりと微笑みを浮かべながら、女性陣をソファにうながす。
それに勢い込んで来たらしい女性陣は気をそがれたように、あら…と、互いに顔を見合わせた。
そうなればもうこちらのものだ。
「あの…せっかく来て頂いたことですし、お茶を淹れて来ます。
少しだけ失礼しますが、待ってて下さいね?」
と、足早についたてを出て給湯室へ。
お湯は保温ポットにあるので、急いでカップを人数分出して紅茶を淹れる。
料理は苦手だが、紅茶だけは定評があるので、これで少し好印象を持ってもらえれば良いのだが……
と、祈るような気持ちで応接エリアへ戻り、ソファに並んで座る女性陣に、
「あ、あのっ…紅茶を淹れるのだけは上手いって課長補佐に褒められた事があるので淹れて来たんですが…こんな風に綺麗なレディに囲まれた事がないので、緊張してしまって…
お口にあうように淹れられていたら良いんですが……」
と、1人1人の前に温めたカップを置いて、ポットから丁寧に淹れていく。
優雅な手つきで淹れられる香り高いそれにうっとりとする女性陣。
それを一つ淹れるたびに
「どうぞ。レディ」
と、にっこりと天使の微笑みで1人1人の前に置く。
それでだいぶ空気が和らいだ気がした。
こうして全員、4人分の紅茶を淹れ終わった時点で、アーサーは自分も本田の隣に座って、自分と本田の分の紅茶を淹れて、
「お待たせして申し訳ありません。
お話をお聞かせ下さい、レディ?」
と、女性陣に笑みを浮かべてコテンと、小首を傾けた。
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