化粧品のポスター撮りが終わって数日…
様々な視線がアーサーに向けられる。
どこか遠まわしに噂をされるその状況は大変心臓によろしくない。
──あの、素敵なバイルシュミット課長補佐と並んでポスターに載るなんて、なんて身の程知らずなフツメン…
とか思われていそうで今更ながら身のすくむ思いだが、幸いにして当の課長補佐がいつも横にいるので、直接的に何か言われた事はない。
しかし課長補佐もアーサーの面倒だけを見て居れば良いわけではない。
その日はどうしても外せない商用ということで、営業の方に駆り出されて行って、帰社は午後。
それで、絶対に1人にしないようになどと、まるで子どもの世話のように、なんと本田課長にアーサーのことを頼んで出かけて行った。
社食は人が多くて自分が居ない時は危ないからデスクで昼食を摂れるようにと、本田課長の分もきっちりランチボックスを作って置いていく課長補佐。
──ほんっとに大切な1人息子を預けて行く保護者そのものですねぇ…
と、本田課長には笑われたが、恥ずかしいよりもホッとした。
最近それだけ視線が痛い。
「彼は本当に君が可愛いんですねぇ…」
昼の柔らかな日差しが差し込む部内のついたてで仕切られた応接セットで、本田課長は頂きます…と、手を合わせながらそう言って笑う。
童顔なのにそうやって微笑むと、なんだか実年齢よりも遥かに老成した大人に見えるのが不思議な人だ。
「本田課長まで付き合わせてしまって申し訳ありません」
と、アーサーが頭を下げると、
「いいえ~。おかげで私までランチボックスを作って頂けちゃいましたし。
自分で作ったりチョイスする時は和食ばかりなので、たまにこういうハイカラな物を頂くのも楽しいです」
と、まるで気の良いおじいちゃんのような顔をする。
課長補佐がいつも彼のことを、ジジイ、と呼ぶのを最初は不思議に思ったものだが、最近はなんとなくわかる気がした。
優しくて穏やかで…まるでお爺ちゃんといる孫のように、なんとなくホッとする。
課長補佐もアーサーには優しくて穏やかで、すごく信頼しているし好きなのだが、たまにふとした瞬間にすごくドキドキして落ちつかなくなるのだ。
でも本田課長にはそういうことがない。
いつもにこにこそこにいる陽だまりのような人…そんなイメージである。
そうして2人で穏やかなランチを…という予定だったが、ふと視線を入口に向けた時、そこに固まっている女性達に気づいた。
大変失礼な例えではあるが、幽霊がいたら視線を合わせてはいけない。
見えているとわかると寄って来られるから…と、まさにそんな感じで、アーサーが自分達に気付いたと気づくや否や、思いきってと言う風に1人が一歩フロア内に。
それに続くように、他の女性陣も次々とこちらへと近づいてきた。
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