とある白姫の誕生秘話──オブザーバーの秘かな楽しみ4

「最初はね、なんか似てるなぁって思ったのよね」

食事が美味しい。
めっちゃ美味しい。

食べるのが好きな本田はエリザの方にどういう思惑があろうと、その一点においてだけは、感謝できる。
美味しいものは正義だ!!

美味しい食事にだいぶ気がほぐれて来た本田に、それまでは取りとめのない自部署内の状況などを語っていたエリザは、頃合いよしと見て話し始めた。

「あたし実はギルとは実家が隣同士の幼馴染でね、中学まではずっと一緒だったのよ。
ワールド商事で一緒になったのは偶然なんだけどね」

「ほうほう?」

「だからあいつとはたまに話したりする事もあるんだけど、その話題の一つにね、なんだか新しく来た課長が人づきあいが苦手らしくて、でもネトゲやってるらしいから、なんだか面白そうだし交流を持つためにも自分もやってみようかと思ってるって言ってたのね」

との話で本田はは思いだした。

そうだ、そう言えば転属当時、気さくに話しかけてくれる部下の態度が嬉しいと思ったものの、とにかく技術屋としての技術力だけで向いてもいない管理職にされてしまった根っからのコミュ症の本田はうまく言葉を返せなくて、前の部署から移動させられたのもそれが理由の一つだったので、余計に焦っていた。

それでも前の部署の周りの人間と違ったのは、ギルベルトは本田が知らない人間と話すのが苦手だと悟ると、答えやすい質問をしてそこから話を広げてくれる人間だったことだった。

「ジジイ、お茶は何派?紅茶にコーヒー、緑茶にウーロン茶、なんでもあるぞ?」
とか、
「室内だと適温だけど、テラス席は空いてて静かだな。
ジジイ、どっちで食いたい?」

など、選択肢からただ単語を答えれば良い質問から始めて、慣れてきたら、そうだ、確かに趣味を聞かれたのだ。


普通なら読書など射し障りのないものを言うところなのだが、ギルベルトの場合は何を言っても嫌な対応を取られる気がしてこなかった。

同じ社内で働く社員で部下なだけのはずだったのに、友人のような空気。

ついつい気が緩んで、

「読書や料理、それに変わったところだと…夜はたいていネットゲームをしてますね」
と、他のリアルの人間には話した事のないことまで話してしまって、次の瞬間、オタクだと引かれるかと思ったら、彼は、

「へぇ~~、それ面白いのか?どんなゲームなんだ?」
と、当たり前にその内容を聞いて来てくれて、それが嬉しくて本田にしては随分と饒舌に話した気がする。

すると彼は単なる社交辞令の話題としてすませず

「そんなに面白いなら俺様もやってみようかな。ジジイ、必要なモン一通り教えてくれ。
自宅のPCはグラフィックカードも良いの積んでるし、メールとネットサーフィンだけじゃもったいないと思ってたんだよな」

などと乗って来てくれて、そこから始めたギルベルトとゲーム上でもフレ登録をして今に至る。


ギルベルトは本当に良い人だと思う。
本田の数少ない友人だ。

だからこそここは自分については何を言われようと、押さえておかなければならない点はある。
なので本田は言った。

「ええ、私、生粋の技術屋で技術力を買われて何故か管理職にされてしまったんですが、技術とコミュ力って別物じゃないですか。
で、最初の部署で成果だせなくて、半分現場に近ければってことで開発部に転属になったんです。
ここでまたダメならかなり不味い事になってたと思うんですけどね。
そんな時に慣れない私を全面的にサポートしてくれたギルベルト君のおかげで今があるので……
私の趣味のせいで彼に迷惑が及ぶような事になるなら、私は筆を折って会社もやめますので、その一点だけはお願いします」

そう、彼は恩人で友人だ。
恩を仇で返すような真似だけはできない。

そう主張すると、

「もちろん!というか、ギルに何かあれば、会社的にも損失だしね。
あたしもやばくなるし、そんな方向性のことはしないと誓うわ」
と、エリザは大きく頷く。

「むしろ、あいつあれで恋愛慣れしてないしね。
協力出来れば、あいつが良い状態なら仕事的にも良い方向に行くし、キクさんの本用の素敵なネタを拾えれば一石二鳥じゃない?
それもあって、今回、化粧品のモデルに奴と新人ちゃんを推してみたのよ」

と、そこでようやく本題に入ることになった。


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