さすがに蒼褪めた顔で手にした日記を凝視するアーサー。
そのまま数分固まっているので、ギルベルトが声をかけると、珍しく黙って首を横に振った。
ギルベルトは初めてアーサーの途方にくれた顔を見た。
「…どうしよう…読みたくない…持ち出しておいて言うのもなんなんだけどな」
並んでベッドに腰をかけるギルベルトの肩にコツンと額を押し付けてつぶやくアーサー。
まるで泣く寸前の子どものような顔で見あげてくる恋人の本人も自覚はないであろう正確な要望を読みとって、ギルベルトはその手から日記を取りあげる。
そしてこてんと小首をかしげるアーサーにギルベルトは言った。
「俺様が…一人で読んでいいか?」
なるべくプライベートな部分は飛ばすようにするから」
「別に…全部読んでも良いけど。ポチが嫌じゃないなら」
「そか。さんきゅ。じゃあ読ませてもらうな」
この全く素直ではない恋人様は言葉にはしないが、口ほどに物を言う大きな眼が雄弁に感謝の意を表している。
ギルベルトもそれに言葉ではなく頭を撫でる形で応えると、日記を開いてパラパラとページをめくった。
4月×日。
あの子達が本部へ行ってからまだ2日だと言うのに、早速敵襲だ。
みんなジャスティスがいるうちにくれば良かったのに、なんて勝手な事を言ってる。
倒したら倒したで倒し方が悪い、味方を巻き込むななんて文句ばかりなのに。
本当に困った人達。
敵は魔導生物25体とイヴィル5人。
ここは囲まれている。逃げ場はないと思う。
私もたぶんここで今日死ぬのだろう。
でもあの子達がいなくて本当に良かった。
2人とも一緒に死ぬには幼すぎるものね。
さてと、くだらないおしゃべりはここまでにして、最後の記録を取るのに徹しなければ。
桜、アーサー、いつかあなた達がこれを手に取る日が来るのを信じて最後まで頑張るわね。あなた達に役に立つ情報を集めて残せる様に。
前回の支部襲撃の時と同様に多数投入されているイヴィルはそれぞれ魔導生物を5体ずつ連れて基地内を回って何かを探している様子だ。
敵から隠れながら逃げ惑う人達に話を聞く。
みんな混乱してるから言う事は様々なんだけど、一貫して言える事は敵が探してるのはジャスティスらしい。
あの子達が本部へ行ったということは、どうやら周知されてはいないみたいね。
支部襲撃の時に敵が多すぎるからと逃がされたと思っているみたい。
あの子達がすでに発ったあとで本当に良かったわ。
あの子達はとても強いけど倒せるって信じてるけど、でもイヴィル5人とか厳しそうだし、もし本当にあのまま極東に居たらたとえ敵わない数の敵がいたとしても他が逃げる間の囮にでもされてそうだしね。
とりあえず…みんなから聞いた事をまとめて想像するに…レッドムーンはどうやらただの無法者の集団ではなく、狂信者の宗教団体らしい。
そして本来はブルーアースで最初のジャスティスの母親が女神様って言って彼らにとっての神というか、信仰の対象らしい。
今ジャスティスを探しているのは、それに何か関係しているとのこと。
で、なんだかね、今年は何か重要な意味があるらしい。
てことは…1年乗り切ればまた色々沈静化するのかしら?
ああ、こんなすごい情報をあの子達に知らせてあげられないなんて…。
2人とも、いつか絶対にこの日記を読んで!
そろそろ隠れ家全体やばそうな感じ。
フリーダムはほぼ全滅したっぽい。
この日記も破損しないようにしまわないとね。
そそ、何人か女性が生け捕りにされたみたい。イヴィルにされたりとかするのかしら?
どうなるのか本当の事はわからないけど、レッドムーンに連れて行かれるって事はあの子達にとってプラスにはならないよね。
私は絶対にあの子達の敵になるつもりはないから…この日記を金庫に戻したらサヨナラだね、桜もアーサーも。
もしいつか元極東支部のイヴィルとか出て来ても私はその中にはいないから安心してね。
勉強が取り柄の独身喪女だけど、まがりなりにも可愛い子ども達の母親役できて幸せだったわ。
2人のおかげで本当に幸せだった。
だから今願う事は一つだけ、2人が幸せになれますように。
桜、アーサー、さようなら
ナナコママより」
パタン、と日記を閉じてギルベルトはアーサーを振り返った。
「当日の様子が書いてあった。俺様が必要な事だけフランソワーズに報告するな。
この日記…俺様が預かってていいか?
いつか今の状態が沈静化してタマと2人で日本に帰れるくらいになったらちゃんと返すからさ」
「…うん。そうしてくれ。…俺いまは読めそうにない。
読んでやるべきだと思うんだけど、自分で持ってると読まずに処分しちゃいそうだしな…」
両手で顔を覆うアーサー。
しかし
「んじゃ、とりあえずそういう事でフランソワーズに報告だけしてまた戻ってくるな。
待っててくれ」
待っててくれ」
と日記をかざして立ち上がるギルベルトのジャケットをアーサーがつかんだ。
「それ後にしろ」
「後に?なんで?」
ギルベルトの質問には答えずアーサーは立ち上がってドアまでツカツカと歩み寄ると、カチっとドアの鍵を閉めた。
ドアを背にアーサーはぽか~んとするギルベルトを見上げる。
そして
「えと…タマ?」
と、戸惑うギルベルトに向かって猫がとびかかるようにダイプして、その首の後ろに手を回した。
「えと…タマ?」
と、戸惑うギルベルトに向かって猫がとびかかるようにダイプして、その首の後ろに手を回した。
「ポチ…しよう?」
と、アーサーはペロリとギルベルトの耳を猫のように舐める。
そんな行動に顎の下を撫でたらゴロゴロ喉を鳴らし始めるのではないかとギルベルトは思う。
まるでじゃれつく猫のようにアーサーはギルベルトの首に頬をすりつけた。
「タマって…本当に猫みたいだな」
「嫌なら抵抗してみろよ」
半分あきれるギルベルトの声にアーサーは挑戦的な目をむけギルベルトの了承を待たずにギルベルトのシャツのボタンを外し始める。
ギルベルトももとより抵抗する気もない。
ボタンを外していく白い指を軽く手で制して、ただ
「良いけど…タマ、スキン持ってるか?俺様鞄の奥底なんだけど…」
とだけ確認を入れた。
アーサーは猫のようなしなやかな身のこなしでギルベルトから身体を放すと、ぽいぽいと上半身の服を脱ぎ捨てながらタンスに向かい,引き出しからスキンを出すとギルベルトに投げてよこす。
「これでいいか?」
少しうるんだ目で再度ギルベルトに身を寄せると、アーサーはギルベルトを引き寄せて唇を重ねた。
そのまま猫のように気ままにじゃれつくアーサーに好きにさせながら、ギルベルトはなるほどね、と思う。
どうやら滅入ってるとこぼすよりも“したい”という方がアーサーにとっては遥かに楽らしい。
クスっと笑うギルベルトに、アーサーはじゃれつくような愛撫を中断して不機嫌に見上げた。
「…なんだよ?」
きつい目で見上げられても可愛いな、とさらに顔がほころぶ。
そして
「いや、本当に猫だなぁって思って。俺からもキスしていいか?」
と言って返事を待たずに唇を重ねた。
そうして数十分後…随分慌ただしい行為だったにもかかわらず、アーサーは満足げな子供のような顔をして意識を手放していた。
ギルベルトもそうであるようにアーサーにとっては滅入っている時はこういう行為は良いらしい。
大急ぎで後始末だけして、アーサーの服を着させ、自分も脱いだ物を身につけるとギルベルトは今更ながら布団を敷いて眠っているアーサーを寝かせる。
そして自身はその寝顔に軽く口づけを落とすと、フランソワーズに日記の報告をしに居間にむかった。
青い大地の果てにあるものverギルアサ_始めから
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