と、それに対して本田が思ったのはそこだ。
そして思ったままを口に出す。
するとエリザの目がキラッ!と光った。
「…それは……」
と、本田は色々な意味で口ごもる。
なかなかデリケートな問題だ。
勝手に広めていいものやら…と思っていると、エリザはそんな本田の迷いを察したかのように、ピッと一枚の写真を寄越す。
こんがりと日焼けした子どもが2人、虫取り網に虫かごを手にして笑っている写真…。
「あたし達ね、兄弟みたいなもんだから。
普段は喧嘩腰でも不幸になって欲しいと思った事はないのよ?
あいつはなんていうか…昔から能力的には器用なんだけどメンタル不器用な奴でね。
放っておくと一生特別に想いあえる相手なんか作れずに、他人の面倒みて人生を終えるような奴だから」
──まあ…今のあたしの婚約者に片思いしてた頃は、あいつにも随分助けてもらったし?
コホンと少し気まずそうに言うエリザに他意はなさそうだ。
「なんだか元気そうなお子さん時代だったんですね、エリザさん。
今のとてもエレガンスな姿からは想像できませんが」
と、写真を手にとって思わず笑みを浮かべる本田。
「ああ、うちは男の子が欲しかったみたいでね、あたし自分が男の子だって言われて育ったのよ。
小学校あがる時に実は女だって知って、もう大混乱。
そんな時もあいつがなんのかんのでフォローいれてくれたしね。
馬鹿だけど良い奴だと思ってるわ」
「それはすごい。
というか、エリザさんご自身の人生を描かれた方がドラマになりそうですね」
と、目を丸くする本田に、
「黒歴史よ」
と、エリザは苦笑して写真をしまった。
.「まあ、というわけで、多少の恩返しと個人的趣味と…あとはあいつが安定していることがイコール会社の安定にもなって自分の生活も安定するかなという打算かな。
あいつが本当に好きになれる相手がいるなら、協力するのもやぶさかではない感じなのよ」
そう言われれば、本田も志は同じだ。
自分よりは遥かに人間関係に長けているであろう協力者はありがたい。
──実はですね……
と、全てを話すべく口を開いた。
「なるほどねぇ…見捨てられない2人の間で揺れているわけね…
あいつらしいっちゃ、あいつらしいわね」
本田が知っている事を一通り伝えると、エリザはそう言ってワイングラスを揺らしながらため息をついた。
「決断力がないわけじゃないんだけど、保護対象を前にすると切り捨てられないのよねぇ、昔から」
「ああ、わかる気がします。ギルベルト君は皆に親切なようでいて、実はきっぱり一線引いていて流されない人ですが、情がないわけじゃなくて、情がありすぎるから引きずられないように線を引いている感じですよね」
「そうそう。みんなに平等なようでいて、実は他人に対してすごくきっかり順位付けしてるのよ。
そんなあいつが順位をつけられない相手2人っていうのが難しいわね。
たぶんどちらを優先しても優先しなかった方に対しての感情で落ち込みそう」
「ああ…わかります。
今回はアーサー君の方がよりわかりやすく大変で他に誰も助けられる相手がいなかったから優先しましたが、これでアリアさんが実はすごく大変な事になっていたということになれば、絶対に彼、落ち込みますね」
「そうよねぇ…
だから、どうかしら?
今比重が一緒なら、人為的にでも片方の比重を重くするように持って行ければ、少しはダメージも少ないかなと」
「なるほど…それでどちらに?」
「アーサー君一択でしょ。
彼の方は一緒に住んで面倒みているくらいなら、比重を少なくするって物理的に無理だし、あたし達も知ってる相手だから手をだしやすいしね」
「まあ…そうなりますか」
「今回は一緒にモデルやることになるし、顔出しするから色々気をつけてあげないといけないこともあるしね。
なるべく守ってあげないとって形に持って行く術はいくらでも取れる気がする」
と、そこで仕事の話に立ち戻って、具体的なスケジュールその他の話題に移って行った。
こうして色々な面で有意義な話し合いを終えた最後に、もう一つ有意義な提案…
「あのね、あたしも学生時代は漫画描いてた事あるから、キクさん、人手がいる時は言ってね。
背景くらいなら手伝うわよ」
「あ、うちも歌劇や化粧関係の資料やったら言うたって下さいねっ!
いくらでもそろえますさかい」
と同志2人。
ああ、素晴らしきはオタク仲間。
就業時間以外は出来れば自宅に引きこもっていたい派ではあるが、今日は有意義な一日だった…と、感動しつつ、本田は美味しい料理の残りを堪能後、軽い足取りで帰宅の途についたのだった。
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