とある白姫の誕生秘話──カッコいいと可愛いの撮影会1

…かっ……こいいっ!!!

今日はポスター撮りとのことで課長補佐とアーサーに化粧を施すためにメーカーの方からプロのメークアップアーティストが来ていた。
そして普通に社内にあるスタジオでメイク済みの私服の課長補佐がカメラの前に立っている。

もちろん私服と言っても撮影側が用意した服で、プルシアンブルーのハイネックに細身のブラックジーンズ。
ジャケットも黒で、さらにそれは私物の鉄の十字架が揺れているさまは、スタイルの良さも相まって、まるで本当のモデルのようだ。

街中をイメージしたファッションで1枚、そしてロズプリコラボということでもう一枚は演劇に出てくるような中世をイメージしたファッションで撮るらしい。

が、もう普通に普通の服を着ているだけで、まるで世界中のカッコよさを集めたカッコよさの体現者のような課長補佐に、アーサーはただ見惚れるしか出来ない。

ちらりと周りに向ける表情に、いつもの精悍さに加えて化粧のせいか男くさい色気のようなモノがあって、視線を向けられた女性陣が声なき悲鳴をあげている。


家では自室のベッドが届くまではもちろんのこと、届いてからも何か話しこむとその勢いで課長補佐のベッドで雑魚寝をしてしまう事がしばしばあるのだが、カッコよさを追求した課長補佐を改めて目にすると、あんなイケメンの隣で眠れてしまっていた自分が信じられない…とアーサーは思った。

元々すごいイケメンではあるものの、さすがプロの腕は素晴らしい。

課長補佐に関してはそう思うのだが……


「アーサー君、そろそろ君の番ね」
と、今回全てにおいて直接仕切っている美女、エリザベータに声をかけられて、アーサーは固まった。

課長補佐はカッコいい…確かにカッコいいを体現している。
だが、自分が可愛いを体現するのは絶対に無理がある、と、アーサーは思う。

今のアーサーの格好は淡いグレーのセーラー風ジャケットに同色の七分丈のパンツ。
それにさらに同色のデザインのベレー帽までかぶらされている。

可愛らしい少年が着れば確かにとても愛らしいそれも、成人男性の自分が着たら絶対に気持ち悪いだけなのではないだろうか……

そう思うと恥ずかしさに泣きたくなる。


泣いたら化粧が落ちてしまう…余計にみっともなくなるし、他にも手間暇と迷惑をかける。
そう思ってぐっと堪えていると、ふわりと肩に手が回されて、撮影位置へと立たされた。

「あ~!その表情良いっ!可愛いっ!!
撮ってっ!!急いでっ!!!!」

情けなくもみっともない表情をしていると思うのに、まるで本当に可愛いものを前にしたように興奮した様子で言うエリザに、もういっそ不思議なものを見る視線を送ると、エリザはいきなり手で顔を覆って、その場にしゃがみこんだ。

え?そんなに正視に堪えないほどひどいのか?!とアーサーはさすがにショックを受けそうになるが、その指の合間から漏れる言葉は…

─無理…ほんっとうに無理…死ぬ…尊すぎて死んじゃうっ

…で、駆け寄ったギルベルトに

「てめえっ!!変態じみた反応してんじゃねえっ!!
アルトが怯えてんだろうがっ!!!」
と、後頭部をはたかれていた。

しかしそれでも
「だって、しょうがないでしょっ!!可愛いもんっ!!死ぬほど可愛いんだもんっ!!!
あたし今、この瞬間のためにこの会社入ったんだなって実感してるんだから、放っておいてよっ!!」
と、絶叫するエリザを放置で、ギルベルトはアーサーに駆け寄ると、

「大丈夫っ!あの変態女は眺めるだけで手は出して来ねえから、気持ちは悪いかもしれないが、怖がらなくても良いからな」
と、色々いっぱいいっぱいで泣きかけているアーサーを抱き寄せて、その目元に、きちんと洗ってプレスしたチェックのハンカチをあててくれる。

するとエリザの悲鳴
「あーーー!!!今っ!!これも撮ってっ!!!!」

呆れるギルベルトに驚くアーサー。

やり手の女性だと聞いていて、常に冷静でエレガント美女というイメージを持っていたが、ずいぶんとテンションの高い女性のようだ…と、今更ながらに思う。

そして彼女に対しては、誰に対しても親しみやすくフレンドリーではあるがどこかきっちりと一線を引いているような課長補佐が本当に遠慮がない事にも気づいた。

やっぱり2人は特別な関係なのだろうか……
自分が気にする事でもないし、プライベートなので聞けはしないのだが、なんとなく気になる。

もしかして、自分が会社に慣れてきて、無言電話とかその他の心配もなくなったら、課長補佐は彼女と一緒に住もうと思ってあの家を買ったのだろうか…

ズキン…と痛んだ気がするのは今度は胃ではなく心臓な気がする。



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