ウネウネと動き回るそれを見てフェリシアーノは一瞬息をのんだ。
「今日だけは敵多いからな。久々に全員で行ってこい」
珍しくにこやかにヒラヒラと手を振って自分達を送り出した上司でもある兄の姿が脳裏をちらつき、ポカ~ンと驚いた表情はみるみる泣き顔になっていく。
「兄ちゃんひどいや!」
と、フェリシアーノは叫び、それと共に眉がへにゃんと八の字になった。
柔和な可愛らしい顔立ちと雰囲気のこの少年、こう見えても世界の警察ブルーアースの特殊戦闘員、ジャスティスのメンバーである。
黒い戦闘スーツに身を包んだ胸元に揺れるのはアームジュエリー。
この世にたった12個しかない貴重な宝石のうちの一つだ。
ジャスティスはそのジュエリーによって選ばれるため、その人数は当然12人のみ。
そして…今世界中を恐怖の渦に陥れている謎の組織、レッドムーンの特殊戦闘員イヴィルに傷を負わせる事のできるのは、このジュエリーを変形させたブレストアームスだけなので、世界の平和はこのたった12人しかいないジャスティスの肩にかかっているといっても過言ではないのだ。
そんな一員であるにもかかわらず、性格はヘタレ。
そう、彼、フェリシアーノは根っからの小心者の平和主義者。
ジャスティス一どころか一般人と比べてもかなりのヘタレ少年である。
選ばれてしまったからには拒否権がないため、ブレインと呼ばれる事務方のトップである実兄に追いたてられてこうして出動している。
が、出来れば基地でパスタやピッツァを食べながら絵でも描いて暮らしたいと日々思っているのだ。
しかしそんな彼の性格を加味して敵が手加減をしたりはしてくれない。
泣いている間にもうねうねと近づいてくる巨大ミミズ。
こちらが立っているだけでも到底撤退はしてくれなさそうだ。
仕方なしにフェリシアーノは胸元のペンダントに手をかけた。
「海を越える崇高な力。モディフィケーション」
フェリシアーノがそう唱えると、手の中でラピスラズリの青がクルクル回り、弓と矢へと形を変える。
本人の性格とは相反するように強力なそれは、しかしながらそれでも本来は強力な少数の敵と対峙するのには適していても、今回のように多数の敵と対峙するのには向いていない。
一応宝玉を武器化したものの、これは無理、逃げてしまおう…
と、反転したフェリシアーノは、襟首を猫のように掴まれて、クルリと反転させられた。
「お前は~!!!逃げるなっ!!!!何をしに来たと思ってるんだっ?!!!!」
と、もう軍隊の鬼教官ばりの声で怒鳴るのはルートヴィヒ。
「ヴェ~、だってこの数は無理だよぉ!
ミミズ気持ち悪いっ!押しつぶされたら怖いよぉ……」
と、人によってはミミズより数段怖いのではないだろうかと思うほどの威圧感を放つルートに、しかしフェリシアーノは若干ホッとしたように泣きごとを言う。
「愚か者っ!ジャスティスの撤退はありえんっ!!
俺達の撤退は抵抗手段を持たぬ多数の一般人の死だといい加減自覚しろ!!」
そう言い放ってルートは胸元のペンダントを武器に変える。
ルートの方は武器は剣と盾。
ジュエリーはアクアマリンだ。
「俺がガードしてやるから、撃てっ!」
と、当たり前に言うルート。
確かにルートが防いでいる間にフェリが倒す、それがこのペアのやり方だが、今回は雑魚敵が多くて、ルートが防ぎきれない可能性が高い。
ミミズの移動は今はゆっくりだが、攻撃を加えた途端一気にこちらに向かって来れば、下手をすれば退路が絶たれるかもしれない。
そんな風に迷うフェリシアーノ。
確かにルートの言うとおりここでミミズの大軍を防いでおかねば、ここから後方数キロメートルにある街が踏みつぶされるかもしれないのだが……
「フェリシアーノォ!!!早くせんかっ!!!!」
とルートに怒鳴られて、フェリシアーノが泣きながら弓をつがえた瞬間
「ル~ッツ、焦んなよ。
お前らの獲物はあっちだ。
ここは俺様かエリザがやる」
ストンと上から跳躍してきた何かがルートの頭をガシっと掴んで左舷前方に視線を向けさせた。
そちらの方向には魔導で強化された敵の特殊能力者、イヴィルが二人たたずんでいる。
「わかった。兄さん、先にイヴィルまでの先導を頼めるか?」
と即気持ちを切り替えるルートと
「ギル、エリザさん、良かったぁ。
俺、ミミズに踏みつぶされちゃうかと思ったよぉ~」
と、はぐ~っとエリザに抱きつくフェリシアーノ。
エリザは笑ってそれによしよしと頭を撫でると、
「じゃ、あたしがここで最終ラインとして食い止めるから、あんたは特攻隊ね。
ついでにちゃちゃっと片方のイヴィルを倒してきちゃいなさいな」
と、ギルベルトを振り返る。
その背には青く透き通った大剣。
エリザはフェリシアーノをルートの方に促すと、それを手に構えてブン!と素振りした。
サファイアのエリザ…。
本部ジャスティスの中では最重量級の武器を得意とする大剣使いである。
「それじゃ、私もエリザさんと一緒に殲滅隊だネ。
エリザさんの攻撃から漏れたミミズの処理は任せてっ!」
と、最後に梅がチャッと濃紺のソーダライトの三節棍を構えたところで方針が決定した。
そうして全員がやるべきことを確認したところで、ギルベルトが片手を胸元のペンダントへ。
――熱情、威厳、そして勇気を体現せよ…ピジョンブラッドソード、モディフィケーション!
伸ばしたギルベルトの手に胸元から紅い光が飛び、燃えるような紅い剣を形作る。
「んじゃ、そう言う事で。行くぞ!」
「「「ラジャっ!!」」」
ブン!!と紅く光る剣を一振りすると、ギルベルトはミミズの群れに飛び込んだ。
そこで獲物が来たとばかりに一斉にむらがるミミズ。
だが、ギルベルトは冷静にそれを剣で薙ぎ払う。
紅い刃は剣圧だけで周りの大ミミズを叩き切っていった。
すると範囲としては広くはないが確実にできる幅2mほどの道。
そこがミミズでまた埋まらないうちにと、ルートとフェリシアーノがギルベルトの跡を追って走った。
「さあて、あたし達もそろそろやっちゃいますかっ!」
「了解だヨ!」
それを見送って最後のフェリシアーノが武器の間合いをはるかに離れると、今度はエリザが大剣を手にミミズに向かって駆け出し、ブン!ブン!!と自身の身長くらいもあるその剣で軽々と大量のミミズを薙ぎ払う。
それに漏れたミミズは梅が手にした棍で丁寧に叩き潰していった。
「ルッツとフェリちゃんは左の奴な。俺様は右行くからっ!」
と、先頭を切って走りながらギルベルトは瞬時に2体のイヴィルの強さを見極め、そう指示をする。
「了解したっ!左に行くっ!」
と、イヴィルまでのミミズをギルベルトが剣圧で吹き飛ばして障害のなくなった道をルートは盾を構えて疾走し、
「ルート、付いて行くねっ」
と、そのあとをフェリシアーノが走った。
ギルベルトはルート達の様子を視界の端で確認しつつ、1人でそちらの方が強いと判断したイヴィルに向かって跳躍して、一気に距離を詰めた。
こうして黒豹のようなしなやかな影が一気に敵に肉薄して、その手に収まっている紅い刃が暗闇を切り裂く。
ヒュンッ!と浴びせたギルベルトの鋭い刃を避けて、男のイヴィルはおどおどとギルベルトに目を落とした。
178cmほどのギルベルトが思わず見上げるほどの大男。
だが、その容姿はというと卵形の胴体に短い手足がついたような、丁度童話のハンプティダンプティのような体格である。
その存在に妙にリアリティが感じられないのはその童話の登場人物と同様だが、違うのは全身緑色で、その表面にはそれより若干濃い緑色のブツブツに覆われている事だろうか…。
顔すらその状態で、近づいてみるとその中に埋もれるように目や鼻口があるのがわかり、遠目から見た滑稽さから一変して気味の悪さを感じさせる。
それでも11歳でジャスティスになって以来、日常的に異形の者を見続けてきたギルベルトは、当たり前にそれをただの敵として認識している。
ただ一つ、いつもはお互いがお互いを認識すると同時に戦闘が始まるのだが、今日は違っていた。
「ブ…プルースターの能力者…か?」
男はオズオズとギルベルトを見下ろし、声をかけてきた。
その言葉にギルベルトは油断なく間合いを取りながら短く
「見ての通り…」
と応じつつ、注意深く敵の動向を探る。
1人で対峙している以上、他からのフォローは望めない。
確実に倒して、出来る事なら他のフォローに回らなければならない。
ギルベルトにとって戦闘というのは、多人数で来ていても常にそういうものだ。
唯一同じ時期にジャスティスになった古参組のエリザとは背を預け合う事もできるが、今日は彼女にも優先的に守るものがある。
ここは絶対に自分がこける事は出来ない以上、慎重すぎるほど慎重に…
ギルベルトはそう判断して、敵の出方を待った。
みたところ他意はなく、そういう個体なのだろう。
今回の敵は律義な性質のようだ。
「お…おれ、レッドムーンの仙人掌いう…。
おまえも名前名乗る」
と、名乗る。
その男の言葉にギルベルトは
「ギルベルト・バイルシュミット。
ま、すぐに覚えておけなくなるだろうけどな」
と、自分も名乗りつつも不敵に笑った。
その後それに続く
「い…良い名だな…おれ覚えておくぞ….本部行って、ギルベルト倒した報告する…」
とのさらなる男の言葉には、今度は笑みを消してスイッと目を細める。
そして
「逆だな。報告するのは俺様だっ!」
ギルベルトは言って剣を構えて一気に間合いをつめた。
敵も能力者だけあって剣圧で身にまとう服が切れるが、肌には傷一つつかない。
しかし剣の刃で切れば当然傷も負えば死にも至るはずだ。
剣の切っ先がその体を捕らえるまであと1mm…
(……っ!)
もう切っ先が触れるという段になってギルベルトはあわてて飛びのいた。
シャキンッ!
今までギルベルトのいたあたりを敵から生えた無数の針がつらぬいている。
「よ….よけるとは、さ、さすが….なんだな。
で…でもこれでお前の攻撃…おれに当たらない...」
敵仙人掌の全身からは無数の長い針が生えてきた。
剣でなぎ払ってみたが、折れてもまたすぐ生えてくる。
おかげで剣が届く間合いに入り込めない。
「…ほぅ……」
ギルベルトはそれに焦る事もなく少し間を取ると、剣の柄に軽く二本指を置いた。
「…変形っ!」
唱えながら切っ先をまっすぐ仙人掌に向けて間合いを詰める。
剣は一瞬光に溶けたかと思えば一気に形を変えた。
そうしてその手に現れるのは紅い槍…
「グォォッ?!!」
ブスリッ…鈍い音をたてて状況が理解できない大男の心臓を槍の刃先がつらぬいた。
槍を引き抜くと血飛沫をあげながらドサッ...と大男が倒れる。
針がパリンと割れて飛ぶのをギルベルトは全て刃でなぎ払った。
そして今度は長い槍の柄に軽く指を置き、変形…とぽつりとつぶやく。
すると槍は光を放ちながら、再び姿を変え、剣となってギルベルトの手に収まった。
それをチャキっと握り直してギルベルトは他の4人にざっと目をやり、その後倒れた仙人掌に目をやる。
そして
「わりぃな..こいつの形は一つじゃねえんだ。
...というわけで本部にお前の事報告させてもらうぜ?」
と、もう音の届かなくなった大男の耳に言葉を残して反転した。
こうして自分の担当のイヴィルを倒し終わったギルベルトはザッと戦況を見渡す。
2人で1体のイヴィルに対峙しているルートとフェリシアーノは、時間はもう少しかかりそうだが大丈夫そうだ。
ということで、視線をエリザの方へ…向けるまでもなく、向こうからお声がかかる。
「ちょっと、サボってないで梅ちゃん手伝ってよっ!!
あたらしく2体わいて出たから」
との言葉に慌てて戻ってみれば、イヴィルがもう2体。
大量の雑魚ミミズの処理を1人で…というのは、武器的にも梅には厳しいので、とりあえずエリザが処理をしつつイヴィルも1体を確保、梅がもう1体のイヴィル相手に時間を稼いでいた。
「お~、エリザ、お前器用だなぁ…」
と、おそらく自分もそのくらいはこなせるとは思うが、やはり楽ではない双方向の戦いをしているエリザに声をかければ、エリザは、後で覚えてなさいよっ!とさすがにギルベルトを殴りに行く余裕はないようで、目でしっかり睨みつける。
そして
「いいからっ!梅ちゃんとチェンジしてっ!!
このミミズ達1匹でも後ろやったら街が大変な事になるんだからねっ!」
と緊張に顔を引きつらせながら、叫んだ。
「了解、了解」
と、ギルベルトがブン!と梅の視界に入る位置からイヴィルに攻撃をしかけ、交代する意を示すと、梅はホッとした様子でエリザが対峙するイヴィルに向かって、エリザのフォローを受けながらそれを倒し始める。
そしてそれぞれがイヴィルを倒し終わると、最後に集合。
みんなでぷちぷちミミズを完全に倒して戦闘は終了した。
「はぁ~きっつ~。」
こうして敵を一掃して戻る車の中、エリザはグタ~っと後部座席のクッションに身を投げ出した。
「最近レッドムーンの動き、異常に活発よね。真面目にきっついわ~」
「ごめんネ、エリザさん。私がちゃんと1人でイヴィル一体くらい倒せれば良いんだけどネ……」
と、その言葉に梅がしゅんとうつむくのに、
「ああ、それは仕方ないわよ。あたしとギルは場数が違うしね。
梅ちゃんはよくやってくれてるわ」
と、エリザはわしわしと梅の頭を撫でる。
「そうだよ。俺だってルートと2人で1体だしね」
とそれにさらにフォローを入れるフェリシアーノには、
「俺達はもう少し精進すべきだがな」
と、そこでルートがチクリと自戒を込めて言うが、フェリシアーノは気にする事なく、くあぁぁと猫のように伸びをした。
「まあエリザさんもギルも、もうすぐ少し楽になるんじゃない?
上の方針でジャスティス全員本部に集めるらしいから」
兄が事務方である研究集団ブレインのトップなため、フェリシアーノは情報通だ。
そう言うフェリシアーノの言葉にエリザの目がきらりと輝いた。
「あー、極東支部組でしょっ!
合流するって噂は聞いたわっ!
桜ちゃん!!ジャスティス唯一のヒーラーだものねっ!
アタッカーからすると助かるわぁ~~」
「あと…あの手の数多い雑魚殲滅も楽になるヨ」
「…ああ、もう一人は遠隔範囲イケる魔術師系らしいな」
と、その梅の言葉にはギルベルトが運転席から口をはさむ。
それにもエリザは目を輝かせて食い付いた。
「アーサー・カークランド君っ!
可愛い子よっ!天使よ、天使っ!!」
「………」
「………」
「………」
そのエリザのテンションに、男3人がまたエリザの病気が…と言わんばかりに押し黙る。
そしてギルが一言…
「お前…食うなよ?」
「…食わないわよ?夢は対象外だから」
「…意味わかんねえ……」
ああ、本当にこいつの話す言葉の半分の意味もわからねえが、わかりたいかと言うとわかりたくねえ…
それがギルベルトの正直なところで、それ以上追及はしない事にして、ギルベルトは運転に集中する事にした。
ブルーアース本部は奥の第一区から出入り口のある第八区まである。
ジャスティス達は任務から戻るとまず諜報部フリーダムにその旨を報告後、報告書を科学部ブレインに提出して任務完遂となるので、一行はまずフリーダムへ向かった。
「お疲れさん!」
そこで一行を迎えるのは就任したての若い本部長、アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド。
ギルベルトの悪友だ。
クルクルとよく動く緑の瞳に少し癖のある茶色がかった髪の人懐っこい彼は、まさに実働部隊フリーダムの親分といった雰囲気の気さくな男である。
行動的で活動的。
ジャスティスと一緒についこの前までは戦場を駆け抜けていたが、本部長に就任してからはめっきり外に出してもらえなくなった事が不満らしい。
「まったくだ。人使い荒すぎだぜ!勘弁しろよ!」
「えー?それ親分のせいちゃうやん。
親分かてこんな書類仕事したないわぁ。戦場でたいわぁ」
「何言うてはるんですっ!
ボスが出て何かあったら大変やないですかっ!やめて下さいね?!」
文句を言うギルベルトに愚痴で返して部下に怒られる。
「ほんま、不自由な身分になってもうたわぁ…。
ジャスティスに同行して武器ふるうとった頃が懐かしいわ」
と言いながら、早くたまった書類に判をとせっつかれて奥へと引きずって行かれるアントーニョを見送って、一行はそのまま事務方のブレイン用の報告書を提出するためにブレイン本部へと足を向けた。
「おつかれ」
と、まず出迎えるのはフェリシアーノに少し似た面差しのロヴィーノ。
こちらも最近就任したブレイン本部長だ。
色白で柔和で柔らかな顔立ちの弟とは対照的にやや色黒で綺麗だがキツイ印象を与える顔立ちのこの本部長は
「兄ちゃん、ミミズはやめてよ、ミミズはっ。大変だったよ」
と訴えるフェリシアーノの後頭部を軽くはたく。
「それが仕事だろっ。
それに…どうせエリザあたりにやらせてたんだろうがっ」
「えへへ。バレた?」
「お見通しだってんだ。こんちくしょうめっ」
そんな風に兄弟でじゃれ合っている間にギルベルトがちゃっちゃと報告書を書き上げ、それを係に渡すのを確認すると、
「ま、報告書は受け取ったから、全員医療室でチェック受けたら解散な」
とロヴィーノはそう言いつつ、ちらりとギルベルトとエリザに目を向けた。
「2人はちょっと来てくれ。話がある」
「「了解」」
なんとなく話の内容は予測できる気がして、2人とも小さくうなづいた。
「極東の事だろ?」
本部長室に入ってドアを閉めると、ギルベルトは自分から切りだした。
「フェリシアーノに聞いたか?」
「ああ。でもなんつーか…極東は色々複雑だって噂だよな…」
そう…本部にいても色々噂は入ってくる。
良いものも悪いものも…
だが、極東組…正確に言うならば極東のジャスティスの2人のうちの1人、アーサーに関しては少なくともフリーダム周りでは良い噂は聞かなかった。
「あ~お前んとこにも噂入って来てんのか…極東の魔術師、“白い悪魔”の……」
ギルベルトの言葉を受けて少し表情を厳しくして言うロヴィーノに
「ちょっとっ!ロヴィーノ君っ!!そう言う言い方はっっ!!!」
と柳眉を逆立てて身を乗り出すエリザをギルベルトは片手で制して淡々と言う。
「ロヴィーノが言ってるわけじゃねえ。ブレイン側は気にしてねえだろ。
むしろ気にしてピリピリしてんのはフリーダムの方だ」
そう言われてエリザは不満げな表情で、それでも黙り込んだ。
ロッドを武器として攻撃魔法を使うアーサー・カークランドとウォンドを武器として支援系魔法を使う本田桜。
極東支部のジャスティスは二人とも立ち位置は後衛だ。
本来は武器的にはあまり相性が良くはない。
それでも支部一広範囲の極東から中東部くらいまでをたった二人だけで長年受け持ってきたのが極東組のすごいところである。
ただ、そのすごさは能力のみにとどまらず、味方の犠牲者の数にも反映されていた。
後衛コンビで盾がいない…。
本来盾を必要とする後衛ジャスティスである二人に何かあればもう誰も何もできない…となれば、その盾役は一般人がやるしかない。
そうなると当然、現場に出るブルーアースのメンバー…諜報部隊のフリーダムがその任を請け負う事になる。
攻撃をしてくる敵に対して、自分達はなんら有効な攻撃手段を持たない…さらに言うなら、アーサーの攻撃魔法は味方だけを器用に避けてくれはしない。
結果…盾役フリーダム部員はアーサーが詠唱中に敵がそちらに行かないように文字通り身体を張って防ぎつつ、最後はその守っていた相手の攻撃で死ぬと言う運命をたどる事になる。
アーサーが死神の使いだの白い悪魔だのという異名をとるのはそのためだ。
「フリーダムはあちこち飛びまわってるし、本部にも極東に身を置いてた奴もいなくはないし、フリーダム内であまり良い印象持ってねえ奴もいるからな。
調整は必要なんだけど、元々先代からブレインとフリーダムって仲良くねえし、俺も就任したてで向こうのボスほとんど知らねえから……」
「あ~…トーニョと親しい俺様に間に立てってことか」
「ああ、そういうことだ。
エリザでも良いんだけど女性が絡むと野郎どもには逆効果になりかねねえし…。
でも事情知ってフォローいれてくれる気のある人間があと1人は欲しいから……」
「OK!全力で後方支援するわねっ!」
「ああ、頼む」
戦力が増えるのは毎回戦場へ送る構成を考えるブレインと実際に戦うジャスティスにしてみればありがたい。
ここはとにかくそこでだけでも協力体制を…
そう言う事でそれぞれ認識の擦り合わせをして、その日はブレイン本部をあとにした。
正直…面倒だと思う。
なるべくなら必要以上の物を抱え込みたくはない。
遥か昔、生まれながらに抱え込んでいたものを根底から覆された経験があるので、ギルベルトは他人から見るとそうは見えないらしいが、他人の何かは抱え込みたくないと思っている。
「…気持ちはわかるけど…今回のは抱え込んであげてね。
あんたの他の負担に関しては、あたしが出来る限り被るようにするから」
と、何故かそんなギルベルトの気持ちを察したように言葉を添えてくるエリザ。
伊達に長い付き合いではないと言うか…見抜かれている事にギルベルトは苦笑した。
「ま、その気がなくても抱え込まざるをえねえんだろうけどな。
頼りにしてら」
と、諦めのため息を一つ。
こうして近日中に本部へ転属になるそのジャスティス一の火力を誇ると言われている魔術師に、ギルベルトは思いをはせるのだった。
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