極東支部の避難所跡の廃墟にたたずんでアーサーがつぶやいた。
ギルベルトとアーサー、フランソワーズ、エリザ、キク、遠子、翼と随行のフリーダムの面々の中で、くじけたのはフランソワーズと遠子のみ。
心配されていた極東出身のアーサーは意外に平静にその中を歩き回って、フランソワーズから預かったビデオに支部の様子を収めている。
そして
「タマ、平気か?やばかったら言えよ?」
と心配するギルベルトを尻目に
「ここ…たぶん研究室。…あ、こっちブレインの仮の事務室だな」
などと検討をつけながら歩いて行く。
「あ…」
やがてアーサーは途中の一カ所で立ち止まった。
瓦礫の中をかきわけるアーサーに気付いてギルベルトもフリーダムの面々も手伝う。
「あった。これ!」
アーサーが小さな金庫を見つけ出して引きずり出した。
「なんだ?それ?」
ギルベルトが聞くと、
「俺と桜を育ててくれた古参のブレイン女性達の1人、ナナコの日記。
あいつの日記はいつも戦闘とか任務とか基地全体の出来事に及んでたから、うまくすれば襲撃のときの様子もぎりぎり書いてあるかも」
とアーサーは指紋認証の認証部分に指をかざす。
「なに?タマの指紋なのか?キーって」
「ああ、俺か桜かナナコの、だな」
金庫の機能は幸いまだ壊れてはなかったようで、アーサーの指紋をかざすと、カチっと音がしてドアが開いた。
「ナナコ、悪いな。持ってくぞ」
アーサーは日記を取り出して、埋もれた部屋の方を振り返って声をかけた。
そこには遺体らしきものはない。
ここからは逃げたあとのようだ。
だが、あちこちに散乱する遺体を一つ一つ確認するには時間がなさすぎるし、メンタル的にもあまりやりたい作業ではない。
見知らぬ人間のギルベルトですらそうなのだから、アーサーはなおさらだろう。
それでも長く共に暮らした彼には、彼女がいた空気のようなモノが感じられるのだろう。
しばらくそうして立ちすくんでいたが、
「行こう。まだ色々さがさないと」
と、何かを振り切るように、踵を返した。
最終的に探索が終わると、遺体を埋めているだけの時間はないので、アーサーの魔法で焼き払う。
「最後の最後まで極東の人間自分で燃やす事になるとは思わなかったな」
苦い顔でうつむくアーサーに、いつのまにか復帰した遠子が
「今までのと違って今回は弔いですからね。火葬ですよ」
とアーサーの顔を見上げた。
その言葉にアーサーはまた基地の方を振り返って手を合わせる。
「みんな、お疲れさま。俺はもう少し頑張ってくるな」
一気に炎で焼いて、ある程度焼き尽くしたところで、念のため山火事などにならないように水魔法で火を消した廃墟から立ち上る湯気の向こうに何を見たのか…
普段はこういう時はほぼ感情を表に出さないアーサーだが、珍しく少しにじむ涙を袖口でゴシゴシこする。
しかしそれも一瞬。
すぐクルリと後ろを振り向いて
「行こうっ!」
とすぐ後ろに控えていたギルベルトの腕を取って車の方にうながした。
「それは…個人の日記よね?
とりあえず襲撃の様子が書いてあるとは限らないし、先にアーサー君に見てもらった方がいいわよね?」
廃墟から持ち出せたいくつかの記録と共にナナコの日記の事を聞いてフランソワーズが言うのに、アーサーは少しためらった。
「一人で…読むのか…」
襲撃の様子をリアルに書いてあるとしたら、それは同時にその渦中にいた時の育ての親のナナコの事も連想させる。
もちろんその死を受け入れられないアーサーではないが、その時の凄惨だったであろう様子をつぶさに連想したいわけではない。
アーサーはついついちらっとギルベルトに目をむけた。
「俺も一緒に読んでいいか?」
その気持ちを汲む様に言うギルベルトにアーサーはホッとしてうなづく。
「んじゃ、とりあえず私らの部屋で読んでくるな。」
ギルベルトをともなってアーサーは2号室の寝室へ消えて行った。
青い大地の果てにあるものverギルアサ_始めから
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